2024.05.30

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.13

「脱・単純リプレース」へ ZEB 化リノベーションの取り組み方(後)

既存ストックのZEB化改修

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「ZEB化」のプロセスを見える化・洗練化する

「『単純リプレース』=既存設備を高効率機器へ単純に置き換えること」をやめ、ZEB化を目指す上では、まず環境性能BEIを把握すること。建物の一次エネルギー使用量のうち空調と照明が占める割合は大きく、リノベーション手法毎に、どのようにその環境性能が改善されるのか、どの程度のコストがかかるのかを「見える化」し、ZEB認証取得までの道筋をクライアントと共有することが重要です。

例えば、環境性能・快適性の観点では建築外皮を高遮熱断熱化することが望ましいのですが、クライアントによってはそこまでの投資は難しいケースもあります。こうした場合は、対策毎の環境性能BEIをベースに、「費用対効果を重視したケース」「ZEB認証の取得を目的としたケース」などをコストとともに提案するなど、事業者が投資計画(長期修繕計画)に応じて選択できるように提案しています。事例の中には、単純リプレースと比較して工事費をアップさせずにZEB化を実現したケースもあります。

ZEB化対策による環境性能BEIの推移(某ビルをモデルケースとした場合)。
  • BEI(Building Energy Index):エネルギー消費性能計算プログラムに基づく、基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の比率のこと。再生可能エネルギーを除き、BEI≦0.50の場合にZEB Readyを達成したと判定されます。

「見える化」への取り組みを応援する仕組みづくり

こうした「環境性能の見える化」は省エネ計算(WEBPRO)で行いますが、個々に状況の異なる複数のケースを並行して計算するのは大変な作業です。当社では、この省エネ計算を合理化して行えるツールを開発し、計画初期段階で技術的な検討の深堀りができるようになりました。より多くのクライアントからのZEB化改修の検討依頼に応えられるようになっています。

2024年4月から、建築物を販売・賃貸する事業者は、広告等に省エネ性能ラベルの表示が義務となるなど、環境性能の把握・向上に取り組むニーズが高まっています。こうした中でこのツールは(効率化の達成もさることながら)、社内の設計者に対して「環境性能の見える化」への取り組みのハードルを下げるものとなっています。


フォローアップとその先へ

当社がリノベーションによるZEB化認証を取得した事例はこれまでに合計6棟あり、いずれもテナントオフィスビルになります (2024年4月時点)。認証を取って終わりとするのではなく、その後のフォローアップ、運用段階でのデータ検証も大切です。

2021年3月、設計段階における『ZEB Ready』認証を取得したジャパンリアルエステイト投資法人が所有する「JRE東五反田一丁目ビル」。当社の「リノベーションによるZEB取得」のさきがけとなったテナントオフィスビルのZEB化プロジェクトです。現状では過大となっていた設備機器の容量を、利用実態に合わせてダウンサイジング。2024年3月、ビルが稼働している中での空調改修工事が完了し、省エネ運用されています。

「単純リプレース」の影響は、建物の日々のエネルギー消費に顕著に表れているのですが、これを事業者やビル管理者が把握することは困難です。そこで、こうしたデータを環境性能BEIやエネルギー消費量の大きさとして分かりやすく示すようにしています。「単純リプレース」で機器が過大になっていると、環境性能の悪化につながりやすいのです。

ZEB化を実現するためには、容量の適正化によるダウンサインジングが重要なポイントになりますが、その結果、運用時においてテナントからのクレームが発生していないかについてはクライアントが特に気にする部分です。例えば、検証事例(下図)のような大幅なサイズダウンを実施しても問題ないことに加え、何より、効率的に運用できていることをクライアントに数字で示すこと。そして、これを今後の設計にフィードバックしていくことが、既存建物、更には都市全体のエネルギー消費量を抑えていく上で重要なことであると考えています。

空調容量適正化・サイズダウンを実施した某テナントオフィスビルにおける夏季の運転状況。ユーザーへのヒアリングより、更新後の空調環境は良好であり、機器を高効率で運用できていることが実績として確認されました。

国が目標に掲げる、2050年のストック平均でのZEB化。これに向けて既存ビルのZEB化リノベーションが当面のミッションとなることは間違いありません。しかし、「ストック平均でのZEB化」の先にある「カーボンニュートラル社会の実現」という本質的な目標の達成のためには、こうした省エネのための取り組みだけでは不十分です。

生産上の工夫(建材・機器の製造において低環境負荷の素材・設備を使うこと)や、廃棄物量を最小限に留められるサーキュラー(循環性ある)デザイン、生物多様性に配慮したデザインなど、ものづくりにおけるアプローチも、より重要度を増しています。私たち設備設計者には、クライアントはもちろん、さまざまな職能・分野との協業による取り組みが求められているのです。


本記事に関する過去のニュースリリース

当社の既存ビルのZEB化リノベーションの実例を取り上げたニュースリリースを紹介します。

Designer's Voice

設計者

リノベーション設計部 / 2010年入社

長 圭一郎

Keiichiro Cho

環境性能が低い建物は座礁資産として見られる時代がすぐそこまできています。環境性能を上げる貴重なリノベーションの機会を決して無駄にはせず、環境の観点でクライアントと対話しながら丁寧に設計を進めていく。その積み重ねがCO2削減につながり、ZEB化へとつながっていきます。リノベーションは脱炭素に向けて重要な役割を担っていると感じています。
※所属はプロジェクト担当時点


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Update : 2022.11.10

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