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2013.10.01
長年愛されてきた歌舞伎座のイメージを崩すことなく、超高層オフィスビルと融合
意匠設計 古材が歴史のオーラを伝え、建物を華やかにする
建築設計四部 住谷 覚
意匠監理 歌舞伎座と調和した高性能なオフィスタワーの意匠監理
建築設計四部 荒井 拓州
長年愛されてきた歌舞伎座のイメージを崩すことなく、超高層オフィスビルと融合させるという
前例のない難作業に挑んだのが意匠担当である。
先代歌舞伎座の味わいを忠実に再現するために、彼らがこだわったこととは。
古材が歴史のオーラを伝え、建物を華やかにする
意匠設計担当 建築設計四部 住谷 覚
今回は伝統的な歌舞伎専用劇場の意匠を継承しながら建て替え、かつオフィスビルと複合させるという前例のないプロジェクトです。このうち、私は劇場部分の意匠を担当し、先代歌舞伎座の継承を図るために史料調査と実測調査を行いました。
まずは、特徴的な意匠である、屋根廻りの瓦や組物(柱上にある軒を支える部分)、建具などの形状や構法を把握することから始めました。その結果を受けて可能な限り古材を使うことにこだわり、例えば正面入口上部には第四期の古材を再利用した「花狭間模様の欄間」を取り付けています。これは第三期から第四期へ受け継がれた意匠です。ほかにも唐破風(からはふ)や劇場内部に使用されていた「錺(かざり)金物」をはじめ、石材や木材を保存採取して再利用しました。特に、正面玄関扉の枠石や舞台の木製プロセニアムアーチについては、古材の補修を最低限にとどめて、時間が刻んだ釘跡や傷をわざと残しています。長い時間を経過した古材はオーラを放ちます。第四期の意匠を継承した上に、オリジナルの古材を組み入れることで、継承された部分が生き、全体として時間の継承を感じさせてくれるのです。古材が歴史のオーラを伝え、第五期の歌舞伎座を華やかに彩っていると思います。
/下:第五期歌舞伎座
現場では劇場の外装担当として、隈事務所と施工者、照明デザイナーと連携をとりながら、各外装材の納まりや再利用材について何度も打ち合せを重ねました。再利用する錺金物を屋根廻りの原寸図にあわせて検証を行い、最終的にはモックアップを作成して各部材の納まりと色、工法、ライトアップ時の見え方を確認しました。外装の主要部材であるPC板やGRC、アルミ、瓦、錺金物など多彩な材料が全体に馴染むよう、外装チームが一丸となってテクスチャーや目地の勝ち負けを慎重に判断して第五期の外装が実現したのです。本当に大変な作業の連続でしたが、現場の足場がとれて第五期の外装の一部が晴海通りに現れた時など、ワクワクするような瞬間が何度もありました。
眠っていた劇場に命が吹き込まれた瞬間
プロジェクトに参加して最も嬉しかったことは、新しく完成した第五期歌舞伎座に大勢のお客様が入ったのを見た瞬間です。杮葺落(こけらおとし)までは眠っているように感じた劇場が再び息を吹き返し、まさに新たな命を与えられたようでした。やはり、建物は使われてこそ生きてくるのです。私事ですが、第三期歌舞伎座から知っている大正生まれの祖母が「外壁の白がきれいだし、新しい歌舞伎座が一番いいね」と言ってくれたのも嬉しかったです。第四期は紫外線や排気ガスなどの影響で、温かみはあるのですが、汚れていたので新装するのに最初からこの色にするわけにはいきません。色相検査をして、先代の建物も当初は漆喰の白色に近かったはず、と結論を出して塗料も随分こだわって選びました。私たちのそんな努力が認められたように感じられました。
歌舞伎座と調和した高性能なオフィスタワーの意匠監理
意匠監理担当 建築設計四部 荒井 拓州
私は意匠監理という立場で、すでに工事が始まった段階からこのプロジェクトに加わりました。担当したのは高層タワーの内外装と地下接続の監理です。設計図が施工図にきちっと反映されているか、細かい部分の納まりなども含め現場で膨大な量のチェックをしました。色味や素材の選択などは隈事務所と相談しながら進めました。
監理はコストを意識しながらも建物の安全性に加え、期日内に完成させるという工期の厳守を担う立場。特に当社はより厳しく監理を行う方針を長年にわたり貫いています。ただし、施工者とのコミュニケーションは大切であり、「一緒に良いものをつくりましょう』というスタンスを意識していました。
各部署にプロフェッショナルが揃う強みを実感
集中豪雨や極端な強風、地震などを想定した各部の性能試験をしっかり行っています。課題が発生すれば、意匠、設備や構造などの担当者とも連携しながら、皆で知恵を絞りました。その点では、各部署にプロフェッショナルが揃う組織事務所としての当社の強みが生かされたと思います。
タワー外壁の色味などは、現場でも悩んだ部分です。白は特に難しい。とにかく巨大ですし、今回は歌舞伎座の背景という意味合いなので、目立ってはいけない。晴れた日と曇った日でも印象が違うので、劇場自体の色味との相性も考慮する必要があります。何度もモックアップで検討を重ねました。
歌舞伎座タワーは歌舞伎座の背景として、外観意匠の上ではいわば脇役です。その脇役に徹し、しかしオフィステナントには高性能で高付加価値の事務所空間が提供できていると思います。
本特集は2013年に取りまとめたものです。各担当者の肩書きなどは、その当時のものです。
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Update : 2013.10.01