2024.05.13

R&D DISCUSSION Vol.53

次世代交通とこれからの都市計画 [後編]

森本 章倫 早稲田大学理工学術院教授、日本都市計画学会会長

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Q : ウィズコロナ、ポストコロナで人々の行動は大きく変化したと思いますが、これからの交通やまちづくりにどのような影響があると考えられますか?

A : コロナ禍では外出の機会がずいぶん減りましたが、実はその前から外出率は低下し始めていました。東京都市圏交通計画協議会が定期的に行う「東京都市圏パーソントリップ調査」では、東京都市圏の総人口が増加しているにもかかわらず、2018年に調査開始以来初めて移動回数が減少しました。20代〜60代の全年齢層で外出しない人が増えていて、若年層にその傾向が顕著です。これは日本に限ったことではなく、米国や英国でも、若者の移動回数が大きく減少しています。
日本は2015年に若者と高齢者の移動回数が逆転し、米国と英国もそれに続いています。これは世界的に若者のライフスタイルが変化したためです。テレワーク、オンラインショッピング、動画配信サービス、フードデリバリーなどが定着し、家から出なくてもいろいろなことができるようになりました。この傾向は、おそらく今後も続いていくでしょう。人は動かないけれど、モノはどんどん動く、という時代になりそうです。トリップの発生率が下がるということは、公共交通のインフラ整備はもう上限が見えているということ。加えて、当面の間、モノを運ぶためのインフラが不足するということで、対策を考えなければなりません。
海外の事例ですが、ロサンゼルスの都心部でテック企業のテレワークが進み、周辺の飲食店や小売店が次々と閉店し、オフィスワーカーも戻ってこないため、オフィスの空室率が30%を超えたそうです。都市の中心地に特定の企業体が集積することは大きなリスクにもなり得るということです。
2021年に東京都市圏交通計画協議会が、前述のパーソントリップ調査をもとに新しいライフスタイルに対応した将来の都市像を公表しました。これまでは郊外に住んで都心で働くことが一般的でしたが、これからは職住近接型の都市にシフトしていくことを提唱しています。オンラインサービスの充実に対応して、都市の構造が緩やかに変わっていくのではないかと期待しています。

オンラインサービスに関連して、3次元仮想空間が都市に与える影響についても触れたいと思います。外出率が低下した要因の一つに、サイバー空間にサードプレイスを持つ人が増えたこともあるでしょう。今やメタバース(インターネット上に構築された3次元の仮想空間)で、アバターを使ってゲームをしたり、買い物をしたり、コミュニケーションしたり、さまざまなことが楽しめるようになっています。若い世代を中心に、1日の何時間かをメタバースで過ごすライフスタイルが広がっていきそうです。2022年にマッキンゼーがメタバース利用者に対して行った調査では、約6割が「現実空間よりも仮想空間で行う方が好ましい行動がある」と回答したそうです。

そこで注目したいのが「都市連動型メタバース」です。2023年のハロウィーン期間中、メタバースに渋谷の街を再現させた「バーチャル渋谷」のように、実在都市と仮想空間を連動させて、実在都市の経済や文化を拡大させる取り組みが出てきています。この都市連動型メタバースをうまく活用することで、フィジカル空間にも一定の効果が現れるのではないかと期待しています。
今、この実在都市と仮想空間を連動するための「新たな計画概念の創出」が求められているのですが、コンパクトシティとスマートシティの融合についても同様の課題があります。整備された交通インフラの周辺に人口を集積するコンパクトシティと、デジタル技術の活用によって移動の必要がなくなるスマートシティは相反する概念ですが、今後、この間を繋いでバランスを取るような、新しい都市モデルを考える必要があるわけです。我々の造語で、これを「スマートシェアリングシティ」と呼んでいます[スライド1]。社会と個人のどちらも利点を増やせるような構造を、スマートシェアリングシティとしてつくっていけたらいいと思っています。
また、それを支える「統合型プラットフォーム」の構築も必要です。国土交通省が取り組む、スマートシティの推進とデジタルツインシティの活用において、コアの部分となるのが統合型プラットフォームです。ビッグデータの格納と将来予測エンジンで成り立つデータプラットフォームで、日本全土のデジタルツインシティ化を目指しており、さらなる精度の向上と実装化に向けて開発が進められています。
そして最後に、運営していくための「組織づくり」も重要になりますが、これはなかなか解が出ない部分でもあります。MaaS発祥の地、ヘルシンキで展開するOpen MaaSの民間サービスは、コロナ禍で利用者が減少して資金力が低下し、システムのアップデートができなくなったため、現在は利用者が半分以下になったそうです。一方で、コロナ禍でも交通局が継続的に運営していた従来の公共交通サービスは、利用者を2倍近く増やしてきました。この事例からわかるのは、民間企業は迅速に魅力的なサービスを提供できる反面、何かあった時の持続性が非常に弱いということです。次世代のサービスを安定して供給するには、インフラに関わる事業は官民連携で進めることが望ましいですが、どのような体制がよいのか、我々もこれから模索していくことになると思います。

Q : メタバース利用者が、現実空間よりも仮想空間の方を好むという傾向は、今後より顕著になっていくのでしょうか? もしかしたら反動で、現実空間の方が好まれる時代が来るのではないかと思うのですが、森本先生はどのように感じていらっしゃいますか?

A : どちらも考えられます。コロナ禍で外出自粛が続いた期間があったからこそ、「やっぱり実際に会うと楽しい」という“対面の価値”を再認識できたと思います。一方で、私が研究を通して感じるのは、メタバースの世界が現実空間にどんどん近づいてきているということです。VRグラスを装着した時の没入感は本当に凄い。メタバースの機能がさらに充実してくると、家にいながらコンサートを最前列で楽しんでいるような体験ができたり、移動しなくても大勢の友達と集まっておしゃべりできたりと、現実と区別がつかないこともできるようになるわけです。そうなると、さらにサイバー空間に没入して居心地がよくなるかもしれませんし、逆に現実空間での人との触れ合いが大事になるかもしれません。
メタバースの研究をしている学生と議論すると、サイバー空間にもリアリティを求めています。実際、匂いや味を数値化し、専用デバイスでリアルに再現する技術がすでに存在するので、サイバー空間の没入感はさらに強まっていくだろうと予想しています。技術の進歩によって、利用者の意識や生活がどんどん変わっていくはずなので、今後の展開が楽しみな、注目すべき分野だと思っています。

  1. 東京都市圏パーソントリップ調査:東京都市圏で無作為で選んだ約63万世帯を対象に、個人の平日の1日の移動を調査したもの。
  2. スマートシティ:デジタル技術を活用し、持続可能性や生活の質をより高めようとする都市の概念。
  3. デジタルツインシティ:リアルタイムで現実の都市を反映するデジタルモデルとして、多様なデータを収集・解析し都市の運営管理に反映させる。

[スライド1:森本章倫氏提供]

PROFILE

早稲田大学理工学術院教授、日本都市計画学会会長

森本 章倫

もりもと あきのり

1964年山口県生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。博士(工学)、技術士(建設部門)。マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員、宇都宮大学助教授、教授などを経て現職。専門分野は「都市計画」および「交通計画」。主な研究テーマは、次世代交通、コンパクトシティ、スマートシティ、TOD戦略、交通安全などに取り組む。 現在、日本都市計画学会会長、日本交通政策研究会常務理事、防災学術連携体代表幹事。国土交通省「都市交通における自動運転技術の活用方策に関する検討会座長」、東京都土地利用審査会会長、静岡県都市計画審議会会長など他多数。主な著書に「図説 わかる都市計画」(編著、学芸出版社、2021)、「City and Transportation Planning: An Integrated Approach」(Routledge、2021)など。


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