2019.12.15

R&D DISCUSSION Vol.26

イノベーションを起こすワークスタイル
新しい時代の生き方vol.1[前編]

坂本 崇博
合同会社SSIN代表、コクヨ株式会社働き方改革プロジェクトアドバイザー

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新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活は一変しました。暮らしのベースは「集合」から「分散」へシフトし、より「個」に着目した行動様式へ変化しつつあります。一方、急速に変化し続ける社会環境に適応するため、継続的なイノベーションの創発や「個」のパフォーマンス向上が求められています。そんな新時代の生き方やワークスタイルについて、企業内イノベーターと語り合う会を立ち上げました。第1回目のゲストは、コクヨ株式会社で働き方改革プロジェクトのアドバイザーを務めながら、個人でも企業や自治体の業務生産性向上の助言活動を行なっている坂本崇博さんです。

Q : コクヨではどのような仕事をされているのですか?

A : 私は、「ワークスタイルイノベーション部」という部署で、働き方改革をしたい、イノベーションを起こしたいという企業や自治体へ、コンサルティングや、アドバイザリ的なことをしています。そもそも、大学卒業後に営業職でコクヨに入社したのですが、入社4年目に新規事業の立ち上げ部署へ異動し、そこで効率的な会議の進め方や情報管理(ファイリング)のメソッドを考案し、お客様にご提供し始めたことが、働き方のアドバイザーをするようになったきっかけです。もともと、私はとても「効率化」が好きで、日々膨大な資料を作成したり、会議に参加する中で、その先の付加価値をどう効率的につくれるかを考えていました。組織内に蓄積された知識やノウハウをうまく共有して生産性や競争力を高める、いわゆる「ナレッジマネジメント」に着目したのもそうした効率化の視点からでした。

このナレッジマネジメントを新規事業にしようと思い立ち、「みんなが同じような資料作成のために遅くまで残業している」「資料の品質・伝わりやすさが人によってバラバラ」といった課題に困っているクライアントに、書類の整理整頓術や共有データベースの構築術を教えたり、提案書をより伝わる資料にリメイクしたり、効率的なファイリングのルールづくりを手伝ったりしていましたが、ある時、この業務をクライアント先に常駐して行ったらどうだろう、と閃きました。早速「ナレッジコンシェルジュ」と名付けて始めたアウトソーシングサービス事業はとても評判がよく、2016年にコクヨから分社化して設立された「コクヨアンドパートナーズ株式会社」の大きな事業の柱となるまで成長することができました。また、もう1つの事業として、事業部門向けに資料の共有活用や品質アップを支援するナレッジコンシェルジュと同様に、メール室や受付、ファシリティ管理といった総務業務のアウトソーシングを請け負う「ビジネスコンシェルジュ」の立ち上げにも参画しました。こうしたアウトソーシング事業によって、クライアントの社員さんは本来やるべき業務に集中でき、残業時間が減る。逆に、資料作成や総務業務のプロが入ることで、時短だけでなく業務品質向上や効率的な情報共有・活用に繋がる相乗効果もあります。今ではこうしたコンシェルジュサービスを約60社に導入していただき、300人のコンシェルジュスタッフが在籍する会社になりました。

私も、そのままコクヨアンドパートナーズの運営メンバーとなることも選択肢の1つだったかもしれませんが、もっと新しい分野での事業開発や新メニューづくり、イノベーションに挑戦したかったので、いったん大阪に転勤し、大手企業向けの働き方改革プロジェクトアドバイザーサービスを立ち上げることになりました。その経験と実績をもとに、再度東京に異動をリクエストし、新しく設立されたワークスタイルイノベーション部に籍を置くことになりました。コンシェルジュ事業についてはしばらく離れることになりましたが、その間も他の創立メンバーや新たに参画した仲間たちが事業を育てていってくれています。少なからずそのきっかけをつくれたということは私の誇りです。

Q : そもそも「イノベーション」という言葉は、いつ頃生まれたのでしょうか?

A : 多くの人はイノベーションを「変革」「革新」「改革」などと訳しますが、初めてイノベーションの概念を説いたとされる経済学者のヨーゼフ・シュンペーター(1883−1950)は、「新結合」という意味合いでこれを説明しました。つまり特定の分野やプロセスに対して、新しい材、サービス、手法を組み合わせ、その結果、組織のあり方、社会そのもののプロセスがガラッと変わる。単に組み合わせて新しいものをつくればよいのではなく、それを世の中に普及させ、価値観や生活様式を変えることができて初めてイノベーションだと言えます。

[スライド1]イノベーションの定義と種類

また、日本におけるイノベーション、イノベーター理論の研究者として著名な関西学院大学IBAの玉田俊平太教授の『日本のイノベーションのジレンマ』(翔泳社/2015年)は、イノベーション理論がとても体系的に整理され、かつ日本国内での事例分析や課題研究が詳しく解説されており、とても参考になります。余談ですが、関西学院大学の玉田俊平太教授は、経済学好きの親御さんに「しゅんぺいた」と名付けられたそうですが、結果、経済学者、イノベーションの専門家になられたということで、すごい運命ですよね(笑)

この「日本のイノベーションのジレンマ」でも紹介されていますが、イノベーションにも「漸次的なもの」と「非連続的なもの」があります。「漸次的なもの」とは字のごとく、徐々にイノベーションが起こること。「連続的イノベーション」と言ったりもします。パソコンが新機能の付加でどんどんバージョンアップし、結果、パソコンのあり方自体が変わっていったりしますよね。一方、「非連続的なもの」とは一気に飛躍するもの。「破壊的イノベーション」と言ったりもします。

漸次的イノベーションの例としてテレビがあります。かつては白黒がカラーに、ブラウン管が液晶になり、価値が上がり続けました。しかし、漸次的イノベーションは続ければ続けるほど価値の向上度に限界が近づき、いろいろ投資をして機能を追加していっても顧客はそこまでの価値を感じなくなってしまいます。今も4K、8K画質とか、3D やIoT技術を組み合わせた新商品が出ていますが、そもそも昔ほどテレビ番組自体が見られておらず、テレビの価格は下がり続け、潰れるメーカーも出ていますね。

そんな中、登場したのがAmazonのFire TV Stick。テレビに差すだけでネット接続されたモニタになり、オンライン配信の動画や映画が見られるようになります。ユーザーはますますテレビ番組を見なくなっていきますね。携帯電話(ガラケー)とスマートフォンの関係性にも言えることですが、革新的なイノベーションは既存の市場ごと潰してしまう。破壊的とも言われる所以です。

Q : 現在のコロナ禍において、どのようなイノベーションが期待されますか?

A : みなさんは、今年の年末に自分が何をしているかはっきり想像できますか? 去年だったら想像がつきましたが、みな先行きが見えなくなってしまった。コロナ危機自体が破壊的イノベーションとして「強制的に社会をアップデートした」と言えるのかもしれません。今日のトークもオンラインで配信ですが、働き方も変わりました。

[スライド2]コロナ危機による社会の強制アップデート例

私自身、ひとりで喋ったり、家で仕事をするのも辛くなってきて、浜辺にキャンプチェアを持ち出し、海を見ながら仕事をしたり、車の中でWeb会議をしてみたりもしました。ちなみに、海辺では絶対に1時間以内で資料づくりを終わらせるぞと決め、満潮の1時間前に着手。どんどん足元に海が迫ってきて効率も上がり、スリリングな働き方っていいなと思ったりもしました(笑)。クライアント側も変わりましたよね。Web会議や電子契約に後ろ向きだったクライアントが積極的になる。建築設計をしているみなさんも、クライアントが「非接触」や「換気」を重視するようになり、新たな設備を入れたいという話が出てきたりしているのではないでしょうか? 今まで売れなかったものが急に売れ、興味を持たれていなかったものが注目を集める。そこにビジネスチャンスを感じる一方、クライアント自身が社会とともにアップデートされてしまったので、それに合わせて自分たちをさらに進化させる必要性を感じます。つまり、この大きなパラダイムシフトの中で求められるのは、圧倒的に非連続的イノベーションなのです。

PROFILE

合同会社SSIN代表、コクヨ株式会社 ワークスタイルイノベーション部働き方改革プロジェクトアドバイザー

坂本 崇博

さかもと たかひろ

1978年兵庫県生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、コクヨ株式会社に就職。“効率化”という観点から会議体の工夫、情報管理方法のアドバイスなどを自ら考案し、新規事業として立ち上げる。同サービスが評判を呼び、2016年に総務業務を中心としたアウトソーシングサービスを提供するコクヨアンドパートナーズ株式会社を設立。現在は、コクヨ株式会社にて働き方改革プロジェクトのアドバイザーを務めながら、個人でも助言家として、土日を中心に地方自治体などで講演活動を行なっている。


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Update : 2018.09.21

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