2019.12.11

R&D DISCUSSION Vol.25

「リノベーション」を通じて見る、これからのデザインプロセス[後編]

馬場正尊 建築家

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Q :最近のプロジェクトを教えてください。

A : ここ数年興味があるのは「運営」です。例えば2016年、三菱地所レジデンスと一緒にやらせてもらっている既存ストックリノベーション「Reビル事業」(企画:三菱地所レジデンス、リーシング:東京R不動産、設計:Open A)で、中央区日本橋馬喰町にあった7階建ての元ブライダル用品のショールーム兼倉庫を、オフィスビル「Under Construction」(2017年)[写真1]にリノベーションしました。最上階はシェアオフィスになっていて、Open Aはこのシェアオフィス内に転居し、運営もしています。

「屋根のある公園で働く」というのがこのシェアオフィスのテーマです。従来とはまったく違うオフィス空間の中でこそ、新しい発想が生まれるのではないかという、ある意味実験的なオフィス空間です。例えばシェアオフィスの入り口付近に設えた巨大な共有キッチンでは、コーヒーを淹れたり、2つ横並びのシンクで食器を洗う時などに交わされる些細な会話が、社内の人間関係を圧倒的に良くしてくれました。小さなきっかけが人間関係を一気に良くするのだと気付かされました。その他にもこのオフィスでは廃材を家具として利活用するプロジェクトも実践しています。使われなくなった信号機を照明にしてみたり、ソーラーパネルをテーブルに見立てたり。こういった新しいプロジェクトを、この空間自体がどんどんと生んでくれていて、Reビル事業の象徴的な空間になりつつあります。

そして、この物件では空間の設えや、シェアオフィス部分の運営だけでなく、ビル全体のクリエイティブな運営をやらせてください、とお願いをしました。例えば各テナントの垣根を越えて、ビル全体で定期的に食事会をしたり、コミュニケーションを生むきっかけを実験的に生み出そうとしています。今の日本の管理は「守りの管理」です。こういった実験を繰り返すことで、ビル管理の概念が変わるのかもしれないと考えています。オフィスビルは、クリエイティブなデザインと運営だけで価値がものすごく上がります。Reビル事業をやりながら思うのは、日本には新しいオフィスのプラットフォームが必要なんじゃないかということです。アメリカのDropboxやPinterestのオフィスなんかは、もうほとんど遊び場のようですよね。またアメリカに先を越されているのが少し悔しいですが(笑)、これは日本における次の課題だと思っています。

Q :これから新しくチャレンジしようと思っていることは何ですか?

A : 僕が今まさに力を入れているのは、公共空間のリノベーション・運営です。5年前くらいに「次はこれだ!」と思い、『RePUBLIC/公共空間のリノベーション』(学芸出版社、2013年)という本を書きました。公共空間の中でも公園、何でもかんでも禁止されてしまい、今ではもはや佇むことしかできないような日本の公園を変えたいと思ったんです。そして、そこに次のビジネスチャンスがあるとも感じていました。

Reビル事業ではビルの運営をさせてもらっていますが、2016年にリニューアルオープンした豊島区の「南池袋公園」[写真2]で、初めて公共空間の運営マネジメントを担当しています。2017年に青木純さんたちとPPPエージェント「nest」を立ち上げ、豊島区が企画するまちの魅力向上や賑わいの創出を目指す「グリーン大通りなどにおける賑わい創出プロジェクト」の実施者として選定されました。それ以来、マルシェやアウトドアシネマなど、さまざまな企画を実施しています。公共空間の運営をしていく中で、例えばこの南池袋公園を訪れた親子の楽しそうな写真がフェイスブックに上がるようになると、南池袋公園がメディア化し、それが拡張されてエリアブランディングに発展していくんです。2014年には東京23区で唯一の消滅可能都市とまで言われた豊島区(注1)ですが、2017年以降「借りて住みたい街ランキング」で池袋が3年連続1位を取っています(注2)。このように、公共空間が変わるだけで都市全体の価値がガラリと変わります。1枚の写真が、この都市全体の価値を上げる力を持っているということです。

nestが企画運営をしているイベントの1つに『IKEBUKURO LIVING LOOP』があります。路上にハンモックやソファ、テーブルを並べたり、マルシェやワークショップを催したりと、最終的には365日こんなハッピーな風景になったら良いなというヴィジョンを持ちながら社会実験を重ねてきたプロジェクトです。

最近、都市全体を良くしていくヒントが「社会実験」にあるのではないかという予感があります。例えば、宮城県・仙台市役所本庁舎の建て替え計画にあたり、本庁舎の前面に広がる、使われていない公園で何かできないかという話があり、暫定利用ということで仮設のカフェ「LIVE+RALLY PARK.」(2018年)[写真3]を設計しました。この実験は成功して、その後カフェの本設化につながり、今進められている建て替え計画のプランニングにも影響を与えています。これから都市をつくっていく上で、「仮設建築」と「社会実験」というものが非常に重要なファクターとなるのではないかと考えています。

  • (注1)日本創成会議・人口減少問題検討分科会、2014年5月8日発表
  • (注2)「2019年 首都圏版LIFULL HOME'S住みたい街ランキング」池袋が3年連続1位
[写真3]仙台市勾当台公園内に1年間の社会実験としてつくられた木造仮設建築物「LIVE+RALLY PARK.」 (宮城県仙台市青葉区国分町、2018年)[photo:Kohei Shikama]

Q :設計して、使って、考えて、また設計して、使って・・・というサイクルで進んでいくということですね。

A : 2015年には、公共建築と使い手となる民間企業や市民をつなぐためのメディア「公共R不動産」をつくったのですが、ある時、静岡県沼津市にある「少年自然の家」がそのサイトに掲載してくれと依頼をしてきました。施設老朽化のため閉鎖が決定しており、その後の活用案を募集したいとのことで、気になって見に行きました。施設自体はよくある少年自然の家でしたが、立地が本当に素晴らしく、非常に豊かな自然に囲まれた公園を併設していました。ここをリノベーションして宿泊施設にしたら面白そうだと思って、利活用の公募プロポに応募したら選ばれ、「泊まれる公園 INN THE PARK」(2017年)[写真4]を設計し、運営もしています。気づいたら、宿泊施設のオーナーになっていました。そのまま「公園に泊まれる」がコンセプトなのですが、ありがたいことにメディアでも話題を呼んで、今では沼津市の価値がかなり上がったそうです。僕は沼津市に土地の使用料を払っているので、沼津市にとっては、これまで赤字だった施設から収入を得られる上、まちの価値も上がったというわけです。

空間やモノが生まれるプロセスについて、20世紀は「計画する→つくる→使う」という、計画する側がプロジェクトの主導権を握っていました。しかし21世紀では、「使う→つくる→計画する」という、使う側が何かを構想して実験的に社会へ還元し、それがさらに計画へと発展していくという、これまでとは逆の方法でプロジェクトが動いているような気がしています[スライド1]。これを僕は「計画的」建築・都市から「工作的」建築・都市への変貌、と呼んでいます。使う側が主導権を握るようになるということは、僕たち設計者は「企画」「利用」のどちら側にも位置していなくてはいけないということです。さまざまな立場の境界がどんどんと曖昧となる中で、建築家の立ち位置はどこなんだろうと思案している人も多いと思いますが、いかにして自分が「空間の当事者」になるか−−−−  これに尽きると考えています。

[スライド1]21世紀は「使う→つくる→計画する」の「工作的」建築・都市へと変貌する

[写真1・4、スライド1:Open A 提供]

PROFILE

建築家

株式会社Open A代表取締役、東京R不動産ディレクター、東北芸術工科大学教授

馬場 正尊

ばば まさたか

1968年佐賀生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修士課程(石山修武研究室)修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年オープン・エーを設立。 都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。

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Update : 2018.09.21

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