2019.08.09

R&D DISCUSSION Vol.13

「社会のゆらぎ」をデザインする
広場的空間の研究vol.1[後編]

岡部 祥司
株式会社スノーピークビジネスソリューションズ エヴァンジェリスト、NPO法人「ハマのトウダイ」共同代表

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トップ画像:Park Caravan in ⾼島⽔際線公園

Q : ハマのトウダイは具体的にどのような活動をされていますか?

A :『ジブンゴト化』する人を創る―――  を理念に、日常の「遊ぶ」「学ぶ」「働く」に変化球を―――  を指針に、妄想したら即実行(少なくともやってみる)―――  をモットーに、活動しています。地域の課題や社会問題は決して行政だけで解決するものではなく、ボランティアだけで解決するほど甘いものでもありません。NPO法人ハマのトウダイという箱を使って、さまざまなステークホルダーと手を組み、公共空間の新しい使い方を提案することで、街をジブンゴト化して楽しめる人をつくっていくことが使命であると考えています。

今、行っている主な活動は4つあり、1つ目は「放課後キッズスクール事業」。4つの小学校で行っている学童保育の運営で、横浜市の補助事業になっています。2つ目は「大学での教育活動」。地域の青年たちのキャリア教育や中小企業とのつながりをつくるため、神奈川大学人間科学部などでPBL(Problem Based Learning)型授業を行っています。最近では、横浜ベイスターズと一緒に、同球団が進めているベースボールパーク構想プロジェクトを学生と協働で進めています。3つ目は「地域商店街の活性化」で、その代表的なイベントが、スリッパ卓球選手権大会[写真1]です。もともとは2015年に保土ケ谷区の和田町商店街で、シャッター通りになっていくのを憂いた経営者が、ラケットの代わりにスリッパを使う卓球で商店街を盛り上げようと始めました。老若男女が楽しめ、健康促進も兼ねられるとあって一気に発展し、2016年には保土ケ谷区全域、2018年には横浜市全域に広がりました。全18区で予選が行われ、頂上決戦を和田町商店街で行っています。最初はスリッパも持ち込み自由だったのですが、2回目になるとスリッパの裏にラバーを貼るなどカスタマイズしてくる強者が現れ、今は大会の方で用意するなど、回を追うごとにちょっとずつルールをつくっています。このイベントは横浜市から補助金はもらわず後援という形にして、中小企業から少額の協賛金を数百件いただいて運営しています。補助金をもらうといろいろ制約が出てくる側面もあるので、どういうフレームだとうまく行くのかを考えるのも成功の秘訣です。

Q : グッドデザイン賞受賞で注目された「PARK CARAVAN」は、どのようなプロジェクトですか?

A : 僕がメインで取り組んでいるものが、4つ目の「街区公園を有効活用し、人と企業がつながる場所をつくる事業」です。これは自分に子どもができて、公園に出かけるようになったことがきっかけなのですが、今の公園は、禁止事項ばかりなんですね。ボール遊び禁止とか飲食禁止とか、中には運動禁止という注意書きを見かけたこともあります。個人では自由に使えない。その一方で、夏になると盆踊りのような大掛かりなイベントをやっている。この差って何だろうと思って調べたら、自治会や公園愛護会という組織だと自由に使いやすいことがわかりました。公園愛護会って何だろうと調べたら、街区公園の清掃などを行う地元住民で構成されるボランティア組織で、横浜市では昭和36年に発足。日常的な管理の費用として、年間5〜6万円の補助が出ています。街区公園とは、市街地などにある公園のうち、半径250m程度の街区に居住する人々が利用する0.2haを標準とする公園で、横浜にある約2,600の公園のうち約2,400が街区公園。そしてその1割に公園愛護会がないことがわかりました。愛護会は会員の高齢化、後継者不足、低い認知度に悩んでいて、また横浜市も世話役がいない街区公園の放置に悩んでいる。そして自由に使いたい自分や企業がいる。これはチャンスがあるなと思って立ち上げたのが、2016年にグッドデザイン賞を受賞した「PARK CARAVAN」[写真2]です。

保土ヶ谷駅前に既存の愛護会が存在しない公園を見つけ、勝手に清掃活動を始めました。次第に地元の人との信頼関係ができ、新しい愛護会を設立しました。個人や企業、市民団体が公園を借りてイベントをしたいといっても行政は許可しにくいのですが、愛護会が主催(利用許可申請者)であれば、地域や行政からの理解も得やすくなります。企業や市民団体は、共催あるいは協力という形にします。さらに、それをコミュニティ形成にも役立つ「防災」関連のイベントと位置づけると、地域や行政からの理解も得やすくなります。単に「公園でキャンプしてみたい」では理解を得るのは難しいですが、「防災訓練として公園にテントを張り、食事をつくり、寝泊まりする体験をする」という防災キャンプは共感を得られやすい。夜の公園で食事をつくったり、セミナーや映画上映を行なったり、継続的に公園を使うことで、安全安心な公園風景をつくることができます。つまり「翻訳」が重要なのです。今では公園だけでなく、ビルの屋上や小学校、道路などのあらゆる未活用空間が対象で、地元企業、再開発協議会などと一緒に、地域の理解を得ながら、自分たちの責任で自由に使える場所にしていっています[写真3]。

[写真1〜3:ハマのトウダイ提供]

Q : どのようにプロジェクトを立ち上げ、進めているのですか?

A : いろんなことをやっているので、よく「なにをやっているのか」と聞かれます。しかし社会の価値観が多様化し、さまざまなものの境界線が曖昧になってきている昨今、「なにをやっているのか」ではなく「なぜやっているのか」が問われる時代になってきたと思います。そこをちゃんと表現できている人や企業は共感を得られる。一見全く接点がないような相手でも、いろいろ話を聞けば、必ず相手方には課題があり、接点が見つかります。相手の立場になって考え、お互いが共感できるポイントを探るのです。美しい共犯関係が成立すると、やれることはたくさんある。僕が関わっているプロジェクトは、そういった会話から始まったものばかりです。そして、まずは自分でできることの中で考える。たくさんの人や予算を集めるとかは最初から考えません。この人とあの人とをつなぐと面白いことができそうとか、これくらいだったらお金が集められそうとか、そういうところからスタートします。

今、パブリックとプライベート、個人と組織、さまざまなもの境界線が変わりつつあり、それをデザインできるかどうかが問われています。僕はこれを「社会のゆらぎ」をデザインする、と呼んでいますが、今日のテーマである広場的公共空間の使い方にも当てはまることで、ポイントは4つあると考えています。1つ目は「小さなトライ&エラーを繰り返す」。ある仮説を立てて、とりあえずやってみるという仕組みをどうつくるか。IT業界ではアジャイル開発と言いますが、これができるかどうかは組織にとっての強みになります。2つ目は「複合事業で取り組んでみる」。広場の運営という考えにとらわれずに、複合的な視点で場の運営を進めていくということです。今、エリアマネジメントで最も求められていることだと思います。3つ目は「解釈の余地を残す」。利用者がそれぞれの思いによって、企画側が予想しない広場の使い方をする時代です。ここはこういう場所だと決めずにつくり、運用サポートに重心をおいた広場は使われます。運営段階や運営サポートに重点が置かれると、広場的空間の使い方は変わってくるのではないかと思います。最後に「チャラ男と根回しオヤジのタッグが最強説」。これは、あるプロジェクトで知り合った早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄先生がおっしゃっていた「知の探索、知の深化、相対するそれぞれを得意とする二人が組むことで、企業のイノベーションは起こる」を、僕なりの言葉にしたものです(笑)。確かに、チャラ男(=僕)とちゃんと組織を回すことができる人がタッグを組むと成し遂げられることが多い。「なにを言うか」ではなく、「誰が言うか」で人は動きます。プロジェクトを進める時は、誰にどういうことを言ってもらうか、を常に考えています。新しい広場的空間の使い方は、横浜だからなく、行政も企業も個人も含めて、人がそろえば、どこでもできることではないでしょうか。

PROFILE

株式会社スノーピークビジネスソリューションズ エヴァンジェリスト

岡部 祥司

おかべ しょうじ

1974年神戸市生まれ。大学卒業後、1997年竹中工務店入社。その後、横浜を拠点に活動し、2011年にWEBシステム制作会社・アップテラスを設立。現在、同代表取締役を務める傍ら、組織および地域活性化のためのコンサルティング会社・スノーピークビジネスソリューションズでエヴァンジェリストを務める。また、2004年に地域への関わりを深めるため、一般社団法人横浜青年会議所に入会し、2012年に理事長職を経験。NPO、行政、地元企業との関係が高まり、2014年にNPO法人「ハマのトウダイ」を設立。アウトドアオフィスやパークキャラバンなどの活動が評価され、2016年グッドデザイン賞を受賞。


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