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2020.01.01

連載|古図面の旅 No.23

丸ノ内ガラーヂビル(昭和3年)
[わが国初の自動車車庫専用ビル]

野村 和宣

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現在工事が進行している丸の内1-3計画(みずほ丸の内タワー・銀行会館・丸の内テラスとして、2020年9月に竣工)の敷地内、永代通りから丸の内仲通りに一歩入った右手に、かつてわが国初の自動車車庫専用ビルが立っていた。自動車は大正期に国産車が造られるようになり、関東大震災後に急激に増え始める。1927年(昭和2年)に三菱合資会社地所部が行った実態調査によれば、丸の内に通常出入りする自動車数は約400台で、年間50台ペースで増えていく予測がされていた。この調査は、丸ノ内ガラーヂ構想のために実施されたものである。自動車のホテルともいうべきユニークなビルは、土地を三菱が貸し、経営は大倉財閥が受け持つというスキームで、起工と同時に丸ノ内ガラーヂ株式会社が設立された。当時自動車は超貴重品、東京市内でもわずか1,500台に過ぎなかった時代に、駐車スペースを貸し付けるという先駆的事業であった。

建物は、鉄筋コンクリート造半地階付き6階建て、延床面積は約1,600坪だった。250台の収容能力を持ち、中央の斜路による自走式で、1階の入り口から6階まで1分間で上ることができるよう設計されていた。オフィス街の真っただ中に「本邦初の自動車車庫専用ビル」をどのような考え方で設計したのか、「自動車庫新築」と題した設計図は大変興味深いものである。まず、立面図を見てもらいたい。石積みの基壇があり頂部にはコーニスが回されている。古典様式の鉄筋コンクリート造オフィスビルの姿をしている。周囲のオフィスビルと並べて違和感があるとすれば、建物各部の高さが左右で違うところであろう。それは、断面図を見ると「なるほど」とうなずける。平面図では柱が楕円形で自動車が回転しやすいように配慮されており、半地下階には修理工場、1階裏には洗車場も備わっている。そして、立体駐車場ならではの排水設備や消火設備、ガソリントラップなどの図面も残っている。

上左:自動車庫新築東側姿図
上右:自動車車庫新築断面図
下左:自動車庫新築工事半地階及一階給排水配管図
下中:自動車庫新築工事各階排水管位置図
下右:外観

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野村 和宣

のむら かずのり

建築や都市を鑑賞する際、専門家の意識を取り除いて、できるだけ素の人間としての自分になって観るように心がけています。美味しい料理が理屈なく美味しいと感じられることと同じように。

Update : 2020.01.01

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