建築の寿命を決める要因として、「物理的な要因」と「社会的な要因」があり、「社会的な要因」には「経済的な要因」「機能的な要因」があるとされている。「物理的な要因」としては建築構造躯体の劣化や付属物の劣化、さらには東日本大震災以降クローズアップされている「耐震性」等が挙げられる。特に、新耐震基準が導入された1981年(昭和56年)以前の建物には、「不特定多数のものが利用する大規模な建築物に対する耐震診断」が今年3月8日の閣議決定により義務化されることになる。耐震診断の結果、基準に満たない建物は今後「改修」あるいは「建て替え」が進むものと考えられる。また、構造躯体の劣化では、土木分野であるが昭和30~40年代の高度成長期に作られたトンネルや高速道路・橋梁の劣化も問題視されている。
また、建築は「社会的な要因」の中の「機能的な要因」による価値喪失も多い。ライフスタイルやワークスタイルの急激な変化に伴い、建築空間に対する要求も多様化・高度化し、今までの建築のスケルトンでは対応しきれなくなっている。電気設備、機械設備も複雑、多様化する要求に応えきれない状況になってきている。
地球環境の観点からみると、建築物が長寿命である事は一般的には地球温暖化ガス(CO2)の削減に繋がると言える。建物の寿命を50年程度として建物のライフサイクルでみると、用途にもよるが、建築時に発生するCO2の量は、解体されるまでに発生するCO2の量の約1/5から1/3にも及ぶと言われており、建築時におけるCO2の発生量が如何に多いかが解る。運用段階について見てみると、このところの省エネルギーに対する技術革新は飛躍的に進んでいる。「スケルトン」である外壁は、開口部のLOW-Eガラス採用やダブルスキン・庇設置など開口部廻りでの日射抑制技術の向上や外壁の高断熱化が進み、「インフィル」である設備機器の性能・効率向上やLED照明機器の普及等により新築建物の環境性能が著しく向上しており、CO2排出量の削減に寄与している。
これらの技術は新築の建物のみならず、既存の建物のリニューアルにも取り入れられている。長寿命建築ではこの「インフィル」部分の更新(リニューアル)が行われることになるが、今後も技術革新が期待されることから、建物の環境性能は更新毎に高まることになるであろう。建築設計者は新築時における建物の環境性能向上に取り組むと共に、更なる環境性能の向上を目指し不断の研鑽をして行かねばならない。また、将来の更新を前提とした設計にも配慮する必要がある。更新に伴う「道連れ工事」を出来る限り少なくする工夫や、機器の搬入、取り替えのためのスペースの確保などである。これらは建設コストや有効率にも影響することから発注者の十分な理解を得るのは当然である。建築設計者は建物の設計において空間をデザインすることと共に、常に建物トータルの設計品質・性能を考えながら設計を進めている訳であるが、その中でも環境品質についての意識をさらに高めることが求められている。建物が竣工したときから設計時に設定した性能・品質を持って稼働し始める。設計者はその設定した環境品質が建物の価値を決める大きな要因の一つになっていることを理解しなければならない。
東日本大震災以降、省エネルギーに対する意識が高まっていると共に、環境への国民的な理解もまた進んでいる。国際的な環境に対する動きにも常に注目して行かねばならない。昨年12月、カタールの首都ドーハで開催された「国連気候変動枠組み条約第18回締約国会議(COP18)」において、2020年迄の排出について、地球の気温上昇を産業革命以前と比べ2℃以内に抑えるために、実際に必要となる温室効果ガスの削減量と参加各国の削減目標値の差が開きつつあり、その差を埋める改善策を見いださなければならない事が認識されたとある。長寿命の建築がその削減のための解決策の一つであり、その必要性が理解されることを期待している。
Profile
元株式会社三菱地所設計 代表取締役副社長執行役員
東條 隆郎
とうじょう たかお
Update : 2013.03.01