FACILITIES COLUMN

新時代に向けた「木造のハードル」を乗り越える設備計画 ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園

国内初の木造・RC造ハイブリッドホテルの実現

今回紹介するのは、建物からホテル運営まで、北海道産の建材や食材などの活用にこだわった「究極の地産地消」を目指す、国内初の高層ハイブリッド木造ホテルの設計プロジェクトです。地下1階から地上8階までを鉄筋コンクリート造(RC造、うち8階床の一部はCLT造)、地上9~11階にわたる最上部3層を純木造とした、「立面ハイブリッド構造」の建物です。
建物全体で1,200㎥超の木材を使用し、その8割以上に北海道産材を使用しています。構造躯体に用いた木材量は国内最大規模となり、建物全体をRC造とした場合と比べると約1,380tのCO2の排出を抑制した、エンボディドカーボン削減への取り組みとなっています。

外観(左)と断面イメージ(右)。事業やクライアントのニーズに応じて木造フロアの数を変えることができる立面ハイブリッド構造は、都市の木造・木質化を無理なく進めていくことを後押しする構造形式であると言えます。

設備の工夫で開放的な屋上テラスを実現

木造部には過剰に荷重をかけられないため、一般的に見られる設備機器の屋上設置を避けることが求められました。このため、空調方式は機器重量と設置面積が小さい電気式の個別分散型方式を軸に計画。寒冷地仕様の空冷ヒートポンプパッケージエアコンを採用し、木造躯体とはエキスパンション・ジョイント※で構造的に分離した屋外鉄骨階段の各階に設備機器を設置しました。
また、外調機、ボイラー、貯湯槽といった主要な機器はすべて地上1階と地下1階に納めました。スペースの少ない機械室ではおさまりの検討に苦労しましたが、こうした取り組みにより、札幌都心部を見渡せる、心地よいウッドデッキのテラスを屋上に実現することができました。

外階段に設置した設備機器(左)。これにより、大きく開けた屋上テラスからは、札幌のシンボルであるテレビ塔を目の前に焚火を囲むことができます(右)。

  1. ※ エキスパンション・ジョイント:異なる構造物同士を、互いの力を伝達させないように連結させる部材。地震発生時などに、建物への負荷を最小限にとどめることが可能となる。

「木を感じられる客室」の実現

木造とRC造という異なる構造が縦に組み合わされた「ハイブリッド構造」の建物であるため、異なる振動特性にあわせた設備の施工方法の検討に苦労しました。特に客室階の排水管は異なる構造の階を縦に貫通しており、木造の階とRC造の階では地震時の水平変位に大きな差があります。このような建物の特性に応じた配管の支持方法について、施工要領(正確に工事を行うため、材料や手順、安全対策などをまとめたもの)を固めるのが難しかったのですが、現場で施工者と支持方法などについて根気よく検討と議論を重ね、かたちにすることができました。

3~6階のRC造の客室でも木を感じられる空間を実現するため、国産木材を「型枠材」兼「仕上材」として活用した「MIデッキ」を用いて、吊り天井を省略することで高い天井高を確保しつつ、コストと工期の圧縮を実現しています。ここでは、高さ31m以下に設けられた客室であることから、内装制限の適用範囲外となり「MIデッキ」は不燃処理を行っていません。しかし、「MIデッキ」を用いた折上天井の部分は天井内に設備機器を設置するスペースがないため、消火用スプリンクラーの配管が天井面に露出してしまいます。そこで、スプリンクラーヘッドに、一般的な天井面設置型ではなく側壁設置型を採用することで、天井面の木部を綺麗に見せることができました。

壁面(正面奥)に設備機器を設置。天井の設備要素を減らし、より木の質感を感じられる空間を実現。

木材利用を進めるために:設備からの課題解決へ

建築業界におけるカーボンニュートラル化が社会的な要請として強まる中、国土の3分の2を森林が占める日本における建築材料としての木造の需要はますます高まると予測されます。一方で高層建物の木質化には、耐火化や高耐力化といったさまざまな課題が山積しています。耐火建築物としての技術的な性能を担保するためには、関連施工方法に対する大臣認定の取得が必要となるためです。
設備との取り合いについても、今回紹介したような課題を引き続き解決していく必要があります。また、今後増加することが予測される木造・木質化改修工事にあたっては既存構造体との調和が求められます。こうした課題や要求に応えていくために、木造・RC造の高層ハイブリッド建物である本プロジェクトで得られた知見を活かしていきたいと考えます。

Designer's Voice

[ 設計者 ]

北海道支店(2016年入社)

井上 義之Yoshiyuki Inoue

新人時代に先輩から「機械設備設計は建築空間を体験する人々に心地よさを提供する仕事だ」と言われたことがあります。その意味でこのプロジェクトは難しいものでした。寒冷地という厳しい外気条件のもと、木造・RC造が混在する高層建物において各設備が要求性能を十分に発揮できなければなりません。そのためには同職能の同僚に加え建築や電気といった他職能の設計監理者の助言やアイデア、現場での施工者やメーカーとの議論や協力が不可欠でした。この経験を糧に様々な知見やアイデアの結集されることで生まれる魅力的な建築空間に、心地よさを提供していけたらと思います。
※所属はプロジェクト担当時点

Data

物件名 ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園
敷地面積 695.51㎡
規模 地下1階 地上11階 塔屋1階
建築面積 7,129.74 ㎡
竣工 2021年8月
設計・監理 三菱地所設計
内装協力:乃村工藝社
所在地 北海道札幌市中央区大通西1-12
延床面積 6,157.06㎡
構造 RC造(地下1~8階 ※8階は一部床CLT)
木造(地上9階~塔屋階)
主要用途 ホテル、飲食店舗
施工 清水建設
受   賞 ウッドデザイン賞2021 ハートフルデザイン部門、建築・空間分野 優秀賞(林野庁長官賞)
第26回 木材活用コンクール最優秀賞(国土交通大臣賞)
令和4年度 木材利用優良施設等コンクール 林野庁長官賞
令和4年度 北海道赤レンガ建築賞 レンガ建築奨励賞
日本建築家協会優秀建築選2022 100選
日本空間デザイン賞 2022 サステナブルデザイン賞 入賞
2022年度グッドデザイン賞
iF Design Award 2023 入賞
2023年北海道優秀照明施設賞

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