FACILITIES COLUMN

さまざまな想い・環境から生まれた照明デザイン 新菱神城ビル

デメリットを活かして魅力的な照明計画へ

都心エリアに建つ「新菱神城ビル」では、建築計画上の高さ制限の中で最大の延床面積を得るため、天井高さを確保したまま階高を極限まで縮小する、といった数々の新たな挑戦をしています。そのため、通常設備機器が設置される天井裏の空間がほとんどなくなり、執務空間には大梁の梁型が突出してしまいます。
これらを解決するため、“突出した梁型に、あえて照明器具を取り付ける”というデメリットを活かした照明計画を考えました。一般的に、天井面に照明器具を取り付けない場合、天井面が暗くなってしまい、作業する机の上は明るくても見た目として「暗い空間」になりがちです。そこで、ここでは上下双方に配光する導光板照明器具を梁型に取り付け、下方面だけでなく天井面も照らすことで、作業面の照度を確保しつつ室全体の明るさ感を出す工夫をしています。さらに、作業面の明るさが足りない場合はタスクライトも併用してもらうタスク・アンビエント方式の採用により、更なる省エネ性向上を図り、ZEB Readyの達成にも寄与しています。

左:執務室。梁下に設置されているのが導光板照明。
右:導光板照明の仕組み。下向きに加えて、約45度の上向きに特に強い配光が行われます。

行燈をイメージしたライティング

神田明神にも近い計画地は、建物の目の前が神田祭の神輿の巡行路にもなっています。 情緒あふれる「下町らしさ」を取り込んだファサード面のライティング計画を実現する上では、建物の正面に集合住宅があることからも建物を明るく照らすような計画にはせず、路地の夜景にふさわしいライティングデザインを目指しました。
ファサードのガラス面の内側には就業者の利用動線となる階段があるため、そこで必要な照度は確保しつつも、行燈のようにぼんやりと建物が浮かび上がるよう、ポイントを絞った照明配置としています。色温度も暖色系の器具にすることであたたかな雰囲気をつくり、環境に配慮した先進的ビルでありながらも、下町に溶け込む佇まいとしています。

夜景ファサード。内部の様子がぼんやりと浮かび上がります。

電力の見える化やセンサ技術とのコラボでエコな運用を実現

「新菱神城ビル」は環境に配慮したビルとして、外皮性能の向上や高効率空調機器の採用、太陽光発電による創エネといった技術を建物計画に取り込んでいるだけではなく、建物竣工後によりエコな運用ができるように、照明やコンセント、空調機器といった使用電力を細かく測定し、どんな設備でいつ・どれだけの電気を使っているかを把握できるようにする見える化システムを構築しています。
測定したデータはリアルタイムで集積されWebブラウザ上でいつでも確認できるようになっているので、在室検知センサと組み合わせて照明や空調の消し忘れ防止や、スケジュール制御の時間設定による無駄づかいをなくすなど、「より効率的で環境負荷の少ない建物」として使い続けられるよう計画しています。

稼働状況、想定データは分かりやすく見える化しています。

Designer's Voice

[ 設計者 ]

電気設備設計部(2017年入社)

飯田 真大Masahiro Iida

照明計画、太陽光発電、使用電力量の見える化、周辺環境への配慮……などなど一般的な事務所ビルとは考え方が違うものが多々ありましたが、事業主の方々とも調整を繰り返してよりよい建物としてつくり上げていくことができ、非常にやりがいのある計画でした。
※所属はプロジェクト担当時点

Data

物件名 新菱神城ビル
所在地 東京都千代田区神田多町2-9-2
敷地面積 595.38㎡
延床面積 4,619.55㎡
規模 地下1階/地上9階
高さ 35.91m
竣工 2020年7月
主要用途 事務所、住宅
設計・監理 三菱地所設計
施工 大林組(建築)、新菱冷熱工業(空調)、城口研究所(衛生)、大栄電気(電気)
受賞 第18回 環境・設備デザイン賞 入賞
(変風量コアンダ空調システムを実現する”Air-Soarer”』)
第10回 カーボンニュートラル賞 受賞
第20回 環境・設備デザイン賞 入賞(『新菱神城ビル』)
第20回 環境・設備デザイン賞 入賞
(『ダイナミックレンジ放射空調システム』)
第60回 空気調和・衛生工学会賞 技術賞 建築設備部門
ASHRAE Technology awards 2023 Region XIII First Place
※ 2022年12月現在/導入各種要素技術の受賞を含む

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