Photo: Takuya Seki
株式会社三菱地所設計(所在地:東京都千代⽥区、代表取締役社⻑:谷澤淳一)は、ドバイにて開催されたドバイ・デザインウィーク2023(会期:2023年11月7~12日)に出展した茶室兼家具のパビリオン、「アラビ庵」および18 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2023年)に出展した「ベネチ庵」の技術詳細を含む本プロジェクトの全容を公開いたしますことをお知らせします。
資源の循環と地域性への応答を実践する、「ベネチ庵」に続く第二弾
英語の「Arabian」(「アラビアの」)と日本語の「庵」から名付けた「アラビ庵」は、今日、世界的に注目される「サーキュラー・エコノミー」(『循環経済』:ストックを有効活用しながら、新たな価値を生み出す経済活動)の実践の試みとして、現地文化に見られる食品廃棄物(茶がらとドライフルーツ)を原料とした新素材と循環性ある資源(再生紙)を建材とした茶室です。
これに加え、設置される場所の緯度を設計に取り入れ、世界各地で展開できる普遍性と地域固有性を両立しています。会期終了後にはさらなるアップサイクルとしてパーツ毎に解体され、さまざまに造形可能な家具として再構成・再流通させる予定です。
本パビリオンは、2023年5~11月まで開催された、ヴェネチア・ビエンナーレ2023における展示イベント「Time Space Existence 2023」に出展しましたプロトタイプに続く、第二弾の展示です。
「アラビ庵」の建築的特徴について
1.展示会場の緯度から形態を生成する
展示会場となるドバイ首長国の緯度(25度)に着目。日射をパビリオン内に適切に導入/遮蔽するため、この角度を基調としたフレーム構成としています。フレームは、ミウラ折りを線材化して積層したもので、構造の要となるジョイントパーツは、力をスムースに流す曲線的なデザインとしています。これは三菱地所設計にてR&Dの一環として研究が行われていた継手技術を展開したものです。
本パビリオンのシステムは設置場所の緯度に合わせたデザインで展開され、先のベネチアでの展示の際は、当地の緯度(45度)を基調として設計され、それぞれの地域性へと回答しています。
2.「サーキュラーなパビリオン」を実現する技術
①食品廃棄物の部材化:ジョイントパーツには、展示地域で生じる食品廃棄物を加熱・圧縮して加工した「フードコンクリート」を使用。今回はアラブ圏特有の食品廃棄物として茶がらとドライフルーツを用い、地域課題に応えます。
②軽量化による輸送時CO2削減:軽量化のため半永久的にリサイクル可能な紙とコルクも併用。設計者がスーツケース(120Lケース×7台分)で部材を運搬することが可能。
③自然に還元する耐水処理:水に弱い素材を建材利用すべく、各素材の物性を調べ、自然界に存在するケイ素を原料とした超越液を部材ごとに調合し塗布。各パーツの水酸基を化学反応で結合させることで耐水加工を実施しました。加えて、日本の伝統的な防水処理方法である漆塗りを導入。自然素材を用いているため、これらの防水処理はともに土に還ります。
一般的に屋外で用いられる建材は金属、ガラス、石、コンクリートなど地域を問わず均質的ですが、これらの技術で、地球環境に優しいさまざまな有機物を建材とする可能性を追求しています。
3.展示期間終了後の展開
展示期間終了後、「アラビ庵」は各パーツに解体されます。所有希望者は、オンライン上で自分がほしい形状をつくり、NFT化した組み立て図とセットで部材を提供する予定です。この際、3Dデータも提供し、3DプリンタやNC加工機を用いてパーツを作成、拡張することも可能です。
家具化を前提に設計が進められた「アラビ庵」は、家具部材により形成された茶室とも言えます。
今回、「ベネチ庵」と「アラビ庵」という異なる国の再生素材を開発し、設置場所の緯度に合わせたデザインに展開していくことで、「サーキュラー・エコノミー」の建築設計事務所における実践・実証の実施いたし、日本の伝統文化の茶の湯の空間として、アート作品として、海外でも評価をいただきました。今回このプロジェクトの技術面や全容を公開することで、国内外で様々な展開をしていくこと、NFT化により多くの方に提供できますことを期待しております。
ぜひご取材いただけますようよろしくお願い申し上げます。
Photo: Takuya Seki
アラビ庵(Arabi-An Tea House)展示概要
展示期間 | 2023年11月2日~6日 |
会場 | ドバイ・デザイン・ディストリクト |
設計・施工 | 藤 貴彰(三菱地所設計・tyfa/Takaaki Fuji + Yuko Fuji Architecture) 稲毛 洋也(三菱地所設計) De Yuan Kang/カン・デユェン(三菱地所設計) Vibha Krishna Kumar/ヴィバ・クリシュナ・クマー(Mitsubishi Jisho Design Asia) |
制作協力 | 町田 紘太(fabula)…食品廃棄物部材製造 室島 満(室島精工)…食品廃棄物部材用金型制作 大澤知士(三越伊勢丹プロパティ・デザイン)…食品廃棄物床材製造加工 日本化工機材…紙廃棄物紙管製造 大出 治(シリカジェン)…超越液防水調合 内田 徹(漆琳堂)…漆防水調合 中野 秀治(IWS)…コルク床材製造 |
茶の湯 | 宇野 景太(無茶苦茶)…プロデュース 松村 宗亮(無茶苦茶)…実演 |
主催 | Dubai Design Week |
WEB | https://www.dubaidesignweek.ae/ |
主要用途 | パビリオン、茶室 |
寸法 | 2,500×2,500×2,500mm |
構造 | ミウラ折りフレーム積層構造 |
材料 | 廃棄物(茶がら、ドライフルーツ、コルク、紙) |
設計者プロフィール
藤 貴彰(ふじ たかあき)
三菱地所設計 チーフアーキテクト/tyfa代表/明治大学兼任講師
環境シミュレーションやサーキュラー素材による周辺・地球環境への配慮を形態的に具現化するデザインアプローチに長ける。
「巡る間」にて、グッドデザイン賞ベスト100、臺北設計奬でサーキュラーデザイン賞、「出窓の塔居」にて、日本建築設計学会賞大賞、日本建築学会作品選集新人賞、日本インテリアデザイナー協会JIDアワード、Architecture Master Prize Winnerほか、「臺北南山廣場」にて、CTBUH Award of Excellence他、国内外の建築賞を受賞。
稲毛 洋也(いなげ ひろや)
三菱地所設計 アーキテクト
BIM、ZEB、GIS、デジタルアーカイブ等に関する開発などを行う。環境シミュレーションやコンピュテーショナルデザインを通じ、人間のアクティビティや快適性、都市環境に基づくデータドリブンな設計アプローチに長ける。
De Yuan Kang(カン デユェン)
三菱地所設計 アーキテクト
主な作品に、某企業海外支店の内装デザインシリーズ、「ザ・グランド・アウトレット・イースト・ジャカルタ」など。
各国のプロジェクトに携わる中、地域特性に配慮した、多様な文化や国際的な要素が織りなす魅力を引き出すデザインアプローチに長ける。
Vibha Krishna Kumar(ヴィバ・クリシュナ・クマー)
Mitsubishi Jisho Design Asia アーキテクト
主な作品に、某企業海外支店の内装デザインシリーズ、「ザ・グランド・アウトレット・イースト・ジャカルタ」など。
UAEでのクライアントリレーションなどを担う。
以上