Q : 新たなビジネスモデルに転換していくために、
建設業界に求められることは何でしょう?
A : 皆さんが現在行っている事業体制、つまりリアルの体制とデジタル(IT、DX、ロボティクス)の双方を駆使して事業を効率化し、変革を促進させる環境を整えることです。そして、既存のビジネス構造から脱却し、新たなビジネスモデルに向けて事業の拡大と発展を図っていく必要があります。まずは、建設サプライチェーンのメカニズムを改めて確認しておきましょう[スライド1]。
スライド1の第1ステージは、事業創造や企画を行う発注者のステージです。第2ステージは発注者と受注者が関わる建設プロジェクトとなり、皆さんに最もなじみのある設計・施工のフェーズです。第3ステージは、完成した建物を発注者が運営していくフェーズになります。第1ステージは発注者を支援するフェーズであり、事業戦略が決定した後、第2ステージへの入口となるのが、設計契約や設計施工契約、あるいは施工契約などの発注図書になります。第2ステージの最終成果品は建物と竣工図書データ類の2つです。施設運営が必要な事業であれば、建物を資産として償却に向けて運営し、次の企画に向けてルーティンするというサイクルになります。
この既存の建設サプライチェーンで効率化を図るにはどうしたらよいか、まずはリアル面についてお話します。前編でも触れましたが、2025年以降は生産年齢人口の減少により、建設業就業者も技術者も減ってゆき、労務費が上昇するとともに、運輸業界の働き方改革の影響で、建設資材の運搬も今までより時間を要するようになります。こうした事情からも、第2ステージの建設プロジェクトを効率化し、生産性の向上を図ることが必須です。
リアル面の効率化で決め手になるのは、基本設計と実施設計の2つのセクションを、いかに連続的に機能させるかということです。基本設計は、事業創造における目標・要求条件・制約条件に合致したプランをいかにつくれるか、さらにQCDSEにいかに落とし込めるかにかかっています。発注者の事業戦略、あるいは企画と連動させることが重要であり、基本設計をまとめた時点で工事費の9割5分以上を確定させる必要があります。工法や運搬、商社との交渉、インフラ、熱源、設備方式といった不確定要素の複合で、工事コストが決まります。これらを早い段階で確定させることで、コスト変動の幅を抑えることができます。
次のフェーズの実施設計からは、コンカレントにプロジェクトを進めていくことが重要です。モノ決め工程をいかに順序よく、秩序正しく、しっかりマネジメントできるかが重要なポイントとなります。着工後を含め、モノ決めのスケジュールを具体的な項目やタスクまで落とし込み、先送りせず遅れを取らないようにしっかりと計画・管理することで、かなり効率化できるはずです。
そして、建設サプライチェーン全体を見通して、プロジェクトに必要なタスク項目を全て洗い出し可視化する。設計、管理、工事と縦割りにするのではなく、事業プロジェクト全体のフレームワークを行い、全体のタスク量、実施するタイミングや順序を整理することで、設計とマネジメントが双方向で洗練され、効率化が進むだろうと考えています。人工(にんく)の観点から見ると、従来のプロジェクトは計画フェーズが進むにつれて人工が増えていき、発注のあたりでピークを迎えます[スライド2]。今後は、これを全体的に前倒しして、さらに計画フェーズの人工を増やす体制を社内で構築することが重要だと思います。
Q : デジタル面での施策はどのようなものがありますか?
DXを推進すると、既存のプロセスにどのような変化が起きますか?
A : 現在、盛んにデジタル面での開発が行われていますが、お金を出したくなるようなスキームでなければ、顧客はなかなか課金しないものです。デジタル化においては、「顧客が便利になるツールとは何か」を考える必要があるでしょう。
そこで、スマートフォンを思い浮かべてください。今や電話として購入する人はほとんどおらず、生活に不可欠な多機能デバイスとして購入しています。機能に差がなければ、一番かっこいいデバイスが欲しいと思いますよね? このデバイスのニーズは、建築も同じだと思います。事業運営に向けて、さまざまな機能をどれだけ便利に建築に取り込めるか。そして形が良いもの、つまりブランディングできるようなものを顧客は求めているわけです。これからは、施設建築も大きなデバイスとして考えていくことが重要だと思います。
スマホのプラットフォーム(OS)は、建築でいうと竣工図書データにあたります。BIMとさまざまなタスク(ソフトウェア)を繋ごうという動きが盛んですが、まだほとんどが非連携だと思います。「使いたい」と顧客に思ってもらうには、業務プロセスの各段階で効率的なタスク処理ができることが理想です。そのためには、企画・設計・構造・設備・施工・運営の各段階で使用するBIM/DXツールの連携が重要です。既存システムの互換やインターフェースを整備して、全フェーズを統合していく必要があります。BIM/DXツールの導入状況を見ると、今はまだ大手ゼネコンでさえ、全プロセスのデータ連携ができていません。まず連携させるべきなのは、設計のBIMと見積点積算のBIMだと思っていますが、これにいち早く取り組むことで差別化が図れるのではないかと考えます。
各プロセスがどんどん連携していくと、実設計・竣工段階で大量のBIMデータを扱うことになります。現在でも既存施設をリノベーションする際には、1テラバイトなど大容量の点群データがすでにありますから、近い将来、データの軽量化やストレージをどうするかも課題となるでしょう。
新しいデジタル技術を取り入れることによって、ITエンジニア、プラットフォーマー、オペレーター、データサイエンティスト、プログラマー、ITデザイナーなどが、全フェーズで関わってくることになりますが、そもそも建設人材とIT・DX人材は、専門性も職業人としての背景も全く異なります。だからこそ、ネットワーキングが必要で、アライアンスとコラボレーションがキーワードになってくると考えます[スライド3]。
まずは建設業界の中で、設計・施工・管理と分断するのではなく、交わって融合していくことで効率化を促進していただきたいと思います。最終的には、建設、IT、経営などの領域を超えて事業を1つのサイクルとしてとらえ、事業サイクル全体の効率化へ拡大することを目指していく。究極は、ソフトウェア、ハードウェア、サービスをシームレスに機能させることが重要だと考えています[スライド4]。自社のプロジェクトマネジャーには、発注者、設計者、施工者からの情報が全て集まってきますから、情報ハブとして円滑にプロジェクトを推進するファシリテーターの役目を担います。そういった人材を育成していくことも今後、重要になってきます。
- 施工管理で重要とされるQuality(品質)、Cost(原価)、Delivery(工期)、Safety(安全)、Environment(環境)の頭文字。
PROFILE
ALFA PMC代表取締役社長
川原 秀仁
かわはら ひでひと
一級建築士、認定コンストラクション・マネジャー、認定ファシリティ・マネジャー/1960年佐賀県唐津市出身。大学卒業後、農用地開発/整備公団を経て、1991年株式会社山下設計に入社。その後、株式会社山下PMCに創業メンバーとして参画し、代表取締役社長、取締役会長を歴任。2023年3月に株式会社ALFA PMCを設立。著書に「施設参謀」(ダイヤモンド社、2015)、「プラットフォームビジネスの最強法則」(光文社、2019)など。
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Update : 2018.09.21