ダクト自体をなくす、という発想
~「Air-Soarer」による変風量コアンダ空調~
天井の高い空間は気持ちがいいものです。
他方、広い空間を空調するためには、天井内に空気の通り道であるダクトを張り巡らせ、部屋の奥まで風を運ぶ必要があります。このダクトがとても大きいために、高い天井を実現することが難しくなります。日々、設備エンジニアは、ダクトを最適設計して空間を最大化しつつ快適性を担保しようと努力しています。
「コアンダ空調」は、このダクト自体をなくしてしまおうという発想です。
コアンダ効果と呼ばれる、風が面に吸い寄せられる現象を利用して、ダクトを通さず、平滑な天井面を生かして風を遠くまで飛ばします。しかしこの空調、冷房の弱運転ができません。冷たい空気は重く、風に勢いがないと途中で風が落下して部屋の奥まで届かないのです。弱運転ができないことは省エネルギーの観点からも解決しなければならない大きな課題です。
Air-Soarerの開発
そこで開発したのが「Air-Soarer」。
風の圧力を利用して、風が出る部分の面積を自動的に調整します。庭に水を撒くホースの先端をつぶすと水が遠くまで届くのと同様で、吹き出す面積が小さくなると弱い風でもスピードが上がり、遠くまで届くという仕組みです。おもりのついた羽が吹出口についていて、強運転では風が開口を押し広げ、弱運転では重りで羽が閉じていきます。
これにより、弱運転を実現することができることになり、年間で83%の送風エネルギーの削減ができるようになりました。
快適性のあくなき探求
シミュレーションは環境を予測するのに便利な手法です。しかし、コアンダ効果により天井に吸い寄せられた空気がどこではがれて落ちるのかといった詳細部分は、解析事例が少ないことから再現が難しい部分です。その詳細が部屋全体の環境に大きな影響を与えるのではないかと不安もありました。そこで、この挙動を正確に把握するため、実際にモックアップ実験室をつくり、詳細な環境測定を行いました。
重要なのは、実際の空間にいる人はどんな快適感、不快感を得るのか、ということです。座る場所、性別、年齢、さまざまな条件で被験者実験を行い、機器をチューニングしていくことで、快適性の高い空調空間を実現するシステム開発をおこなうことができました。
私たちの開発したAir-Soarerにより、ダクトのない高い天井の空間と省エネルギーを同時に実現することができるようになりました。三菱地所設計の設備設計部では、よりよい空間を実現するアイデアを大切にしながら、細部にこだわり設計を行っています。
「Air-Soarer」開発体制
三菱地所設計【設計】システムの考案、製作/検証全体のオーガナイザー
新菱冷熱工業【施工】CFD(気流解析)による効果予測/新菱冷熱中央研究所での効果検証/実物件へ導入後のコミッショニング
芝浦工業大学 建築環境設備研究室(秋元研究室)【評価検証】被験者実験による熱的快適性の検証/知的生産性、省エネルギーの評価
協立エアテック【開発】器具の開発・改良、実機製作
Air-Soarerに関する記事は、こちらもご覧ください
R&D Works Vol.3 Air-Soarer 変風量コアンダ空調システムを実現する風速一定器具
プレスリリース 変風量コアンダ空調システムを実現する“Air-Soarer” を共同開発
プレスリリース 少風量でも室内のすみずみに新鮮外気を届ける変風量コアンダ空調システムを実導入
Designer's Voice
設計者
機械設備設計部 / 2010年入社
平須賀 信洋
Nobuhiro Hirasuga
ダクトにより空気を運ぶ、といった「当たり前」に設計されていることは、過去の膨大な事例や研究の歴史の上に成り立っているものです。こうした「当たり前」を疑問に感じるアイデアは生まれても、ひとりの力でこれに対峙して克服することは難しいと思います。この開発には設計の早期段階から、アイデアに共感いただいた学術機関、施工者、メーカーの多くの皆さまに協力いただき、技術を結集することで成り立っています。この場を借りて感謝申し上げます。
※所属はプロジェクト担当時点
Data
物件名 | |
---|---|
所在地 | 東京都千代田区神田多町2-9-2 |
敷地面積 | 595.38㎡ |
延床面積 | 4,619.55㎡ |
規模 | 地上9階、地下1階 |
高さ | 35.91m |
竣工 | 2020年7月 |
主要用途 | 事務所、住宅 |
設計・監理 | 三菱地所設計 |
施工 | 大林組(建築)、新菱冷熱工業(空調)、城口研究所(衛生)、大栄電気(電気) |
受賞 |
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Update : 2022.11.10