60年以上にわたり多くのビジネスマンが足を運んだ戦後日本のアイコン「大手町ビル」は、大手町の街並みを形成する顔として存在し続けてきました。この老朽化した建物には、建て替えという手法ではなく、既存ビルの長所を活かし、未来に向けてアップデートする「リノベーション」という再生手法がとられました。このビルは横方向の長さが特徴。敷地街区は3本の並行する通りに接しながら200m続きます。その長い外壁を、それぞれの通りの性格を映し返すように切り替えることで、連続する1枚のファサードが表情を変えながら次々と変化してゆく風景が出現しました。ひとつの塊だった建物が、新たな街並みとなって生まれ変わります。
大手町ビルを活かす
大手町ビルは1958年竣工。日本の高度経済成長期の、いわゆるビル・ブームの時代に建設されたビルのひとつです。当時の建築基準法に準拠し、高さは制限いっぱいの31m。50×200mの細長い敷地に、容積率1,000%で建設された巨大ビルです。長手方向に建物を貫く中廊下はさながら街路。周囲に立ち並ぶ現代の超高層ビルが垂直方向の移動で成り立つ中で、それを真横に倒したような建物です。
老朽化のため、建て替え・再開発か、リノベーションかの選択を余儀なくされましたが、ここでは後者が選択されました。超高層ビルを建てにくい特殊な敷地形状である一方、細かい短冊状のフロア割りができるので、スタートアップ企業向けなど、今日の小さなオフィス面積への需要に応えられるという特徴を活かした選択でした。建て替えではなく、既存ストックを利活用する選択をすること。サスティナブルな社会の実現に向けた、三菱地所グループが進める「100年ビル」という考え方の一例です。
面している3本の通りのイメージに合わせてファサードの素材を変えている。
通りに合わせてファサードデザインを切り替える
既存ストックを利用する今回のリノベーションでは、建物の面影を残し、景観を継承する選択がなされたものの、オリジナルの姿を保存するのではなく、通りの風景を建物の構成要素に活かすリ・デザインを行いました。
元の外壁は、柱梁に沿ったグリッド構成が画一的に200m続く、アルミパネルのファサードでした。このファサードは3つの大通りに接しているのですが、それぞれの通りは性格が異なります。東の「大名小路」は、東京駅をはじめとする洋風建築が面する通りで、レンガの建物が軒を連ねていました。三菱一号館、日本工業倶楽部会館など、うちいくつかが復元されています。西の「日比谷通り」は皇居外濠の石垣に面する通り。面する建物には石のモチーフが用いられています。そこで、新しい大手町ビルの外壁は、東側をレンガタイル調、西側を石垣調に仕上げました。仲通りがぶつかる中央には、抜け感を透明性で表すため、高透過ガラスを使用。部分的にデザインを切り替えながら、ひとつのファサードとして連続させています。
GRCパネルにはそれぞれエイジング塗装を施している。
既存壁面の外側20cmのやりくり
既存のグリッド壁面の面影を継承する外壁には、新たなアルミフレームのグリッド「レイヤードフレーム」を付加。デザインを切り替えながらも、フレームにより全体の統一感を担保します。フレームにはレンガタイル調、石垣調のGRCパネルをはめていますが、歴史の重厚性を表現するため、陰影と奥行き感が出るように構成。開口部上部にはルーバーを取り付け、日射負荷を低減しています。
老朽化した建物は、窓サッシが今日求められる性能に満たなくなっているケースが多く、それはここでも同様です。既存のスチールサッシから新しいアルミサッシへの交換は、今回はテナントがフロアを使用する中で工事を進める必要がありました。そのため新設サッシを、外壁パネルと一体化した「レイヤードフレーム」とともに外から取り付け、その後、建物内側から旧サッシを撤去する方法がとられました。屋内工事はそれぞれのテナントの都合に合わせて別個にスケジューリングできます。オリジナルの壁面から外側にふかすことができる余地は20cmあまり。その幅の中にフレームを収めるため、緻密なスタディが繰り返されました。
大手町ビル・リノベーションのプロジェクト紹介は当社HPをご覧ください。
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Update : 2019.01.17