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2013.10.01
三菱地所設計が培ってきた、技術と経験が結集された
都市再生の枠組みのなかで歴史の継承が求められている
GINZA KABUKIZA設計監理業務
プロジェクトマネ ージャー
建築設計四部 野村 和宣
2013年2月。銀座のランドマークとして125年の歴史を持つ、歌舞伎座の建て替え工事が竣工した。
第五期となる新しい歌舞伎座は、劇場と超高層の歌舞伎座タワーからなる複合開発である。
伝統を継承しつつ、最先端の技術を結集して完成に至ったのだが、そこには三菱地所設計が培ってきた
豊富な経験とノウハウ、技術力が惜しみなく注がれていた…。
今回の「GINZA KABUKIZA」プロジェクトは、歌舞伎座と歌舞伎座タワーが併設された複合開発です。旧木挽町にあたる銀座四丁目の敷地は、明治22年以来ずっと歌舞伎座が存在し続けてきた場所。長年にわたり多くの歌舞伎ファンに愛された先代の歌舞伎座(第四期歌舞伎座)は、建築家岡田信一郎が設計して大正13年に建築された第三期歌舞伎座が戦災に遭い、その後、建築家吉田五十八によって改修された建物でした。鉄筋コンクリート造で伝統様式を見事に表現した先代歌舞伎座ですが、二度の火災による躯体の劣化、耐震性やバリアフリーの問題などによって抜本的な機能更新、すなわち建て替えを余儀なくされました。
わが国が世界に誇る伝統芸能である歌舞伎とその殿堂・歌舞伎座は、実は民間企業である松竹株式会社と株式会社歌舞伎座によって守られているものなのです。今後も永遠に歌舞伎と歌舞伎座が継承されていくために、土地を有効活用してオフィスビルを併設することによる安定した事業性の確保も求められました。すなわち本プロジェクトは、銀座のランドマークであり歌舞伎の殿堂である歌舞伎座の継承を主軸に据えた都市再生プロジェクトなのです。2006年にプロジェクトがスタートしてかれこれ7年。都市再生という開発の枠組みの中で、どうやったら第四期まで受け継がれてきた「歌舞伎座の伝統」を継承できるのか、重いテーマに取り組んできました。
当社はこれまで、歴史的建築物の継承を伴った数々の再開発プロジェクトを手掛けています。日本工業倶楽部会館(国登録有形文化財)の保存を伴った日本工業倶楽部会館・三菱UFJ信託銀行本店ビル街区、明治生命館(国重要文化財)の保存を伴ったMYPLAZA街区、三菱一号館の復元を伴った丸の内パークビル街区、東京中央郵便局局舎の保存を伴ったJPタワー街区など、再開発の中で行ったさまざまな歴史継承のケースが見られます。このうち明治生命館を除く3例に私も携わってきました。
三菱UFJ信託銀行本店ビル
これまでのケースでは、建築そのものの持つ歴史的価値を継承するという観点から、文化財修復の手法により、史料や建物の調査分析に基づいて忠実な保存修復・復原、再現を行いました。ところが、本プロジェクトでは、建築そのものの保存は適わない中で、歌舞伎座の伝統を継承するという全く新しい試みとなりました。つまり、歌舞伎の殿堂=歌舞伎座の伝統は、明治22年から代々建て替えや改修をくりかえす中で、歌舞伎専用劇場として一つの最適解として育った「第四期歌舞伎座」に宿っているものであるとの視点に立ち、第四期歌舞伎座を知り尽くした上で、受け継ぐべきところを受け継ぎ、第五期歌舞伎座に反映させました。そして、空間や意匠の面でも、先代の歌舞伎座の造形を踏襲し、古材を要所に再利用することで、歌舞伎ファン、役者、事業主といった関係者一人ひとりの記憶に響く建物にしようと考えました。
もちろん、第五期歌舞伎座に求められた新たな性能も随所に盛り込まれています。その上で、歌舞伎座の下には地下鉄コンコースとつながった都市の広場として機能する木挽町広場を創り、屋上には歌舞伎文化を広く発信する交流機能と屋上庭園を設け、さらには大奈落(深さ約15m)からフライタワー(高さ約20m)を含む無柱の舞台空間を土木的スケールのメガストラクチャーで跨いだ地上145mの歌舞伎座タワーを実現させるなど、綿密な計画と最新で高度な技術力によって完成したのがGINZA KABUKIZAなのです。
第五期歌舞伎座がオープンして、杮葺落興行は待ちかねた歌舞伎ファンで連日連夜大入り、評判は上々のようです。多くの方が「前と変わらない、懐かしい歌舞伎座が帰ってきた」と表現してくださったことも嬉しかったですね。私自身、第五期歌舞伎座が完成して改めて建物の外部や内部空間を体験したとき、記憶の中にある第四期歌舞伎座とつながり、今まで現実として目の当たりにしてきた現場の光景が夢のように思われました。歴史的建築物の歴史継承を伴うプロジェクトで必ず訪れるこの瞬間。この瞬間に、歴史継承が成功したと受け止めることができるのです。歌舞伎の伝統を支えるファン、事業主、役者の皆さんも私と同様に、記憶の中にある歌舞伎座とつながったのだと思います。あわせて、プロジェクトが成功したのは、関係者の皆様の並々ならぬご協力とご指導の賜物であったと改めて思うとともに、このすばらしいプロジェクトに携わる機会を与えていただいた松竹様、歌舞伎座様に感謝申し上げます。
本特集は2013年に取りまとめたものです。各担当者の肩書きなどは、その当時のものです。
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Update : 2013.10.01