Q : 具体的にはどのように使われていますか?
A : 当初から「NO」と言わない運営を心掛けてきましたので、本当にさまざまですが、例えば、高校のダンス発表会や地方物産展、人前結婚式、防災訓練、盆踊り、ボクシングの試合、企業説明会などの就職イベント、パブリックビューイングなど。年5回以上×10年以上続いている、ある1人の主婦の方が主催しているマルシェもあります[写真1]。最初は地ビール好き同士でこじんまりと始めたイベントが、今では全国の地ビールが集まるようになり、東京からわざわざバスが出ます。ガラス屋根の年1回のメンテナンスを清掃業者業界のコンテストにしたり、清掃イベントにして自分たちも参加したりもします。ハーモニカ愛好家120名による大発表会もありました。音を出すので迷惑をかけたくないと、わざわざ百貨店の休業日に実施しました。また、ある時は、富山大学から大学祭のPRをしたいと相談があったのですが、その日は全面専用使用のイベント予約が入っていました。しかし「歩行は自由ですよ」と言って、広告を頭に被った学生が大勢で広場を通り過ぎるというパフォーマンスを提案しました。宣伝効果も絶大だったと思います。なるべく自由に、主体性を重んじる方針ですが、助言やサポートはしっかりと行います。専用使用といっても動線なので、完全に貸し切ることはできません。貸し切れないからこそ、価値があると思っています。しかしそれを理解して始めないと大変なことになります。いくら使用料を払っていただいているとしても、とくに最初の頃は、積極的に関わりました。5年目くらいになると、使う方の顔ぶれが決まってきたので、今では当初の方針である見守るという姿勢をとっています。
また、1年前から予約を入れられるようにしました。年に1回ここで発表するチームが365団体いれば、年中稼働するというわけです。イベント終了後、来年の予約をして帰るというのが定着している方もいます。1年先をワクワク楽しみにしている人がまちなかに溢れる――― というのは、すごく素敵なことではないでしょうか。グランドプラザを、何か発表したくなる、おめかしして出掛けたくなる、「ハレの場」に仕立てるというのも当初から心掛けていることで、稼働率を上げる秘訣だと思います。私が富山に移住した頃は完全な車社会だったので、まちなかを歩く人自体がまばら、いたとしてもジャージ姿で、かなりの衝撃を受けました。グランドプラザでは常に人に見られ、人を見るという関係性が生まれ、今、富山市民は非常にオシャレになって、まちなかをたくさんの人が歩いています。
Q : 平日にもにぎわいの景色をつくるための工夫について教えてください。
A : オープン当初はスタッフも少なく、伸び悩む集客をどうしようかと思索する中で、まずは幼稚園や保育園などに遊びに来ませんかと呼び掛け、「まちなかの子どもの居場所」にすることに取り組みました。子どもたちが楽しそうに遊ぶ様子は人に安心感を与え、にぎわいづくりに大きな力を発揮します。幼稚園や保育園だと先生も来られるので、少ないスタッフでも対応できるというのもあります。イベントのない平日は、広場の一角に人工芝のマットを広げ、富山県産のホウノキのつみ木で遊べる「つみ木広場」[写真2]を常設しています。テーブルやイスと同様、つみ木広場はここが人の居場所であるという認識を与え、広場の目印にもなります。つみ木のいい音が広場に響きますし、空っぽの場所が途端ににぎやかで楽しそうな場所に一変します。また「チョークでお絵かき」[写真3]というイベントも開催しています。チョークを準備しておくだけなのですが、子どもたちはある一定エリアに好きな絵を描くことができます。実はメインのイベントはそれが終わった後のお掃除です。床が御影石なので、水を流してジャブジャブ掃除できるのもグランドプラザのいいところです。子どもたちにはチョークよりもデッキブラシの方が大人気なくらいです。子どもが裸足で遊ぶことで、広場はますますキレイになり、美しい場所になっていきます。
子どもだけでなく、近隣の高齢者施設にも声を掛けて、散歩に来ていただくようになりました。子どもをなるべく多様な人間関係のなかに解き放つということが重要だと思うのです。本日お集まりの皆さんもそうだと思いますが、いくつになってもまちを大切に思う人たちには、幼い日々のまちでの楽しい思い出があるという共通点があるように思います。子どもたちにまちに愛着を持ってもらい、将来まちについて考えられる人になって欲しい。いわば地域の未来への投資なのです。私が好きな建築家、ルイス・カーンが語った「都市とは、小さな子どもが歩いていくと、将来一生をかけてやろうとするものを教えてくれる何かに出会う、そんなところだ」という都市観のような、まちに育ってくれることを願っています。
[全国まちなか広場研究会提供]
[グランドプラザ事務所提供]
Q : 富山グランドプラザが軌道に乗った後は、全国各地、困っている広場があれば、そこに引っ越し、お手伝いをされています。そのほかに手掛けられた広場では、どのような取り組みをされているのでしょうか。
A : 2017年に弘前大学の北原啓司先生からご紹介いただき、青森県の八戸市で今、広場をつくっているけれども実は困っていて、何をやったらいいのかわからないというお話をいただきました。それが2018年7月にオープンした「八戸まちなか広場 マチニワ」[写真4]です。八戸市は文化でまちのにぎわいを取り戻そうと、まちなかに市直営の本屋をつくって話題になったのですが、その本屋に面した開閉式の全天候型広場です。お向かいにある八戸ポータルミュージアム はっちが運営し、広場の中心にはアートディレクターの森本千絵さんが手掛けた「水の樹」という噴水のオブジェが据えられています。1時間に1回、音や光による演出が行われます。私は基本的に困らないと呼ばれないのですが、もう開業まで1年を切ったところだったので、運営上問題になりそうなハードの解消や、備品の準備に奔走しました。例えば、203インチの大型ビジョンに流すものを決めるとか、奥行きが深すぎて使い勝手が悪い倉庫の扉の位置を付け替えるとか、そんなこともやりました。その前に関わっていたのが兵庫県明石市の「あかし市民広場」[写真5]です。2017年に1月にオープンした明石駅前再開発ビルの2階、駅を出て自然にエスカレーターを上がった先に広がる屋内広場で、上階には図書館や市役所の窓口機能などが入っています。そのまま歩いていくと商店街に辿り着くのですが、その商店街活性化のためにつくられ、観光協会が運営しています。こちらは開業の5年くらい前からお手伝いしていて、市役所内で広場の重要性が認識されていないため、その内部調整役として呼んでいただきました。オープン後も、どう広場が使われるのか、マーケティング調査を行いました。その調査結果を分析してハードを改善したり、イベントの企画を反映させるということもしました。そのほか、福岡県久留米市の六角堂広場などもお手伝いしてきましたが、公共事業として「広場」を整備し、しっかりと管理運営すれば、にぎわいづくりを行政が「継続的」に支援できるということがわかってきました。
今のデジタル社会こそ、リアルな人との交流が大切になってくると考えています。富山市都市計画審議会会長を務められた早稲田大学の宮口侗廸先生が、富山市が推し進めるコンパクトシティの意義を「ヒトとヒトとの出会う機会が増えることである」とおっしゃっていたのが印象に残っています。そしてその時に「大きな広場」は非常に有効です。ひとつの空間であり、たくさんの人が集まることができ、それでも大きな「余白」がある。人は同じ時間を過ごすことで、顔なじみになります。話をしなくても、お互いの存在を認識するだけで、多様なコミュニケーションを創発します。この「話をしなくていい」が結構重要です。中核都市ならではの面白さでもあります。空間と余白によって顕在と潜在の交わりを生む、それが広場なのです。
(開業:2018年/設計:INA新建築研究所/広場サイズ:約25.7m×約30.7m)
[八戸ポータルミュージアム はっち提供]
(開業:2017年/設計:東畑建築事務所・大林組共同企業体/広場サイズ:約22m×約23m)
[あかし市民広場事務所提供]
PROFILE
ひと・ネットワーククリエイター、広場ニスト
山下 裕子
やました ゆうこ
1974年生まれ。全国まちなか広場研究会理事、NPO法人GPネットワーク理事。1999年富山に移住し、演劇やアート関連イベントの企画制作に携わる。2007年よりグランドプラザ運営事務所勤務。2009年一般財団法人地域活性化センター第21期全国地域リーダー養成塾修了。2010年より株式会社まちづくりとやまグランドプラザ担当。2011年よりNPO法人GPネットワーク理事。2014年より広場ニストとして独立。その後、八戸・豊田・泉北・神戸・明石・久留米をはじめとする全国のまちなか広場づくりに関わる。著書に『にぎわいの場 富山グランドプラザ 稼働率100%の公共空間のつくり方』(学芸出版社/2013年)。
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Update : 2018.09.21