新しいまちづくり勉強会

都市におけるグリーンインフラと
スマートシティにおける
AIの導入 【後編】 ニューラルグループ株式会社 常務執行役員 まちづくり事業本部長 
一言 太郎 氏

国土交通省・スポーツ庁に在籍時代、都市公園や都市農地、スポーツ施設などに関する総合的なまちづくり・地域づくりの政策業務に携わり、その後、ニューラルグループ株式会社に移りデータ取得・活用を通じたさまざまなプロジェクトを手掛ける一言太郎氏。
日本造園学会関東支部の活動をきっかけに三菱地所設計との交流が始まりました。
まちづくりに関する注目テーマを皮切りに、まちづくりにおけるグリーンインフラの果たす役割やデータ活用の方策などについて伺いました。

まちづくりにおける
データ活用のいま

事務局 現在、三菱地所設計においても、駅空間設計等の入口としてデータ活用、特に人流データ活用がトレンドになりつつあります。転職された一言さんが現在の会社において携われているプロジェクトについてご紹介頂けないでしょうか。

一言 人や車に関してエッジAI によりデータ化できる技術に関する営業を統括しています。人流や交通量を取得できますよ、ではなく、それが政策的にどのように活用できるのか、人々の暮らしにどうやってつながっていくのかをお客様と一緒に考えていきたいと思っています。 公共関係のプロジェクトを見ていることが多いのですが、行政機関において、データを取る技術への要請は高まっていると感じます。国土交通省でも、私の知る限り、道路局や鉄道局、都市局等の部局がAI 画像解析を踏まえた議論を始めています。地方公共団体からのご相談もかなり増えてきています。

エッジAI画像解析技術を活用した、ニューラルグループによるデジソリューションサービス。現在はモビリティ・人流/防犯向けプロダクトを提供している。従来型クラウドAIよりもデータ量が少なくて済むほか、端末内解析とすることで、より個人情報に配慮した処理が可能。
(出典:同社Webサイト

事務局 実務経験を通じてデータを取得する際に直面している課題があれば教えて下さい。

一言 一般的には、個人情報保護が一番重要になると思います。弊社では画像を転送せず、カメラ側で処理をして属性情報等のテキストだけを送信する技術を活用しています。

事務局 まちづくりに関するデータ蓄積のプラットフォームは誰が担っていくべきと思われますか?

一言 個人的には公共が担うべきだと考えています。人流や交通量はインフラの一つとして取得され、蓄積され、オープン化されていく時代が来るのではないかと考えています。自治体の基盤情報として当たり前になる時代が来るとすれば、その過程で情報のあるところに民間投資が行われる時期が来る可能性すらあるのではないかとも考えています。店舗の出店計画等の際に地域の人流データが求められるという話も聞きます。そういった判断をしやすいデータが提供されていることが、地域間の差異を生み出す可能性もあると考えています。

事務局 データをどうまちづくりに活かすか、取得したデータを有意に扱える人をどう育てるのかがこれからの課題と思います。所謂「データサイエンティスト」の育成についてご意見を頂けますか?

一言 膨大なデータがあることが当たり前になり、データを直観的にいじれる(処理できる) ツールがこなれていくので、遊び感覚で新しい分析結果がどんどん生み出されていき、「データを可視化すること」が一般社会の中で普通に行われることになると思います。データ・ネイティブな世代が出てくるのではないでしょうか。意図のあるなしに関わらず間違った可視化がなされるリスクもありますが、オープンデータ化されていれば再検証や注意喚起も同時に行われることが予想されます。結果として、社会全体のデータに対するリテラシーは向上していくと期待しています。
現時点では、データをどう活用するかが見通せないとデータ取得が始まらないということが多いですが、「どう使うかは分からないがデータを取っておく」という試みにも意味があると思います。なぜなら、データを取る前には懐疑的だった人が、データを見た途端に色々な意見を言い出す、というケースに多く遭遇するからです。データには人の考え方を能動的にする力があるのではないかと思います。こういう経験をした人が増えていくということも価値があるのではないでしょうか。

今回、一言氏の撮影を行った丸の内仲通りでは、ニューラルグループによるAI解析技術を活用した人流解析『デジフロー』が導入されている。イベント実施時の来場者数や滞在時間の見える化を行うほか、都市OS データベースと連携、各種情報と結び付けることで「デジタルを活用した安全・安心なまちづくり」の実現を図る。
(出典:同社ニュースリリース

事務局 新しい街づくりに際して『データ活用型まちづくり』というテーマを掲げる場合にポイントとなることについてご意見、ご見解を頂けないでしょうか?

一言 現状のデータ活用は、管理者の経済性・利便性の追求に用いられていることが多いです。これが行き過ぎることで息苦しい社会に繋がるという懸念もよく指摘されています。個人的には人々の幸福を増やす、人々の社会に対する納得感を高めるためにデータを使っていきたいと思っています。身近な例でいえば、公園内の遊具の使われ方を客観的に可視化し、撤去せずにリニューアルしたり、人気のある遊具を導入したり、というようなことからで構わないと考えています。遊具が変わるとしても、それを使っていた子供たちが納得できる裏付けをしていってあげたいなと思います。成熟した日本においては、こういった幸福度や健康度というのは今後ますます重要視されていくと思います。そういう街には、人々の定着や外国人材も含めた新しい住民の獲得も期待でき、世界に先駆けたまちづくりになっていくのではないかと思います。

事務局 本日はありがとうございました。

一言 太郎 

ニューラルグループ株式会社 常務執行役員 まちづくり事業本部長

2006年東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、国土交通省入省。都市局公園緑地・景観課、まちづくり推進課等で都市公園、都市農地、復興等に関する業務を担当。2015年10月~ 2017年6月までスポーツ庁に出向。スポーツ施設に関する政策担当者として、スポーツ基本計画、スタジアム・アリーナ改革指針、スポーツ施設のストック適性化ガイドライン策定等に従事。2021 年より現職。国や自治体、民間企業と共に、まちづくりにおけるデータ活用の様々なプロジェクトに参画している。