Vol.03 第三者監理業務

社員座談会 三菱地所設計の工務

Round-table: Construction Supervision of MJD

白坂 武彦

工務部 チーフエンジニア

ゼネコンなどで施工管理・監理に従事した後、2008年三菱地所設計にキャリア採用で入社。工務部での監理業務のほか、リノベーション設計部、三菱地所への出向(商業テナント入居支援)なども経験。一級建築士以外にも技術士、建築設備士から消防設備士まで保有資格多数

林 信行

工務部 チーフエンジニア

2008年三菱地所設計に入社。コストマネジメント業務や監理業務に従事後、5年目の2012年から2年間勤務した北海道支店ではコストマネジメント業務と監理業務のほか、設計のサポートなども担当。その後、6年間のリノベーション設計部勤務を経て、2020年から再び工務部にて監理業務に従事。

濱崎 翔平

工務部 エンジニア

就職活動中に監理の仕事を知り、2014年三菱地所設計に入社。初めての仕事は「鉃鋼ビルディング新築工事」の監理業務。約2年間担当した後、2016年よりコストマネジメント業務に従事。5年目の2018年から再び工務部にて監理業務に従事。

※役職名は掲載当時の内容になります

THEME 01

第三者監理業務とは

近年増加する、他社設計物件の監理業務

設計図書通りに建物ができているかの照合・確認を行う監理業務の中でも、特に他社が設計した建物の監理を行うことを「第三者監理」と言います。

白坂

そもそも、「監理」という仕事を分かりやすく説明すると、必ずしも正確な表現ではないかもしれませんが「オーケストラの指揮者のような仕事」です。指揮者は楽曲の解釈や曲の強弱、テンポを的確に演者に示すことで、最適な演奏を聴衆に伝えますが、指揮者が違えば、演奏方法や表現が異なり、同じ楽曲でも全く違う演奏になりますよね。それと同じで、監理者が設計の意図をどのように工事に反映し、どう確認するかによって、建物の品質や出来栄え、使い勝手は変わってくるのですよね。

建築基準法で一定の規模以上の建物には工事監理者*1を置くことが定められており、通常は設計した会社がそのまま監理を担当します。しかし、デザインビルド(設計・施工を一括でゼネコンに発注する方式)のプロジェクトでは、そのゼネコンではない、第三者に監理を依頼するケースが増えています。発注方式が多様化する昨今ならではの仕事です。

The Okura Tokyo(2019年)

東京・虎ノ門のラグジュアリーホテルの建て替え工事において、当社はCMと第三者監理業務を実施。第三者監理に特化した体制やフローを盛り込んだ業務方針・計画を策定し、これに臨みました。
特に、総合図を合意形成ツールとした課題解決手法の構築によって建物の完成度を一層高めることができ、クライアントからも高い評価をいただきました。

発注方式が多様化する中で
生まれたビジネスチャンス

白坂

クライアントサイドからすれば、設計・施工に加えて監理まで同じ会社が担当すると、品質管理やコストに対する「お手盛り感」「甘さ」が出てしまうのでは……という懸念が生じるのかもしれません。ここ数年、当社の監理業務件数の約1割をこの第三者監理が占めており、その件数は年々増加する傾向にあります。

濱崎

施工者ではなく、私たちのような「監理業務に実績のある組織設計事務所」ゆえにプロジェクトに参画できる。デザインビルドが増えていく中でのビジネスチャンスとも言えます。

例えば、これまでずっと当社が校舎などの設計を手がけてきた成蹊大学の新校舎建設プロジェクトでは、昨今の時流を受けてデザインビルドのコンペが実施されました。その結果、ゼネコンが実施設計・施工を行うこととなり、基本設計・CM*2に加えて第三者監理業務を当社に発注いただきました。現在、私はこの現場を担当しているのですが、長年携わってきたキャンパスでのプロジェクトなので、既存施設との調整や、施工上の助言なども含め、第三者監理として多いに役立っていると自負しています。

白坂

第三者監理は、今でこそ新規顧客開拓の一環にもなっている重要な仕事と位置付けられていますが、実はその昔、当社ではあまりよいイメージが持たれていなかったように思うのです。あくまで「設計と監理はセット」という考え方だったので、設計が受注できない時にせめて監理だけでも……という感じだったかと。しかし、業務の多様化や、クライアントニーズが拡大しつつある昨今、第三者監理が足掛かりとなって新たな設計の仕事につながることもありますね。

濱崎

私たちの監理の仕事ぶりを見て「この会社に設計を頼んだら、すごい仕事をしてくれるだろう」と、別の新築プロジェクトで声をかけていただくケースですね。こうした展開に応えられるよう、積極的に業務に取り組んでいます。

白坂

私が担当している、某大規模再開発事業は、基本計画・基本設計に加えて監理を当社と他社設計事務所がJVで担い、実施設計と施工をゼネコンが行うプロジェクトです。地上約40階建て、延床が約20万㎡あり、意匠(他社設計事務所が管轄)以外の構造・電気・機械の監理を、それぞれ2~3名で担当しています。監理と合わせて設計監修も受注しているのですが、こうしたスキームが今後は増えていくかもしれませんね。

*1 建築基準法上の工事監理者の位置付け
建築基準法上、建物の建築主は下記の一定規模を超える建物を建てる際には「建築士法に規定する建築士である工事監理者を定めなければならない」とされています(建築基準法第5条の4 建築物の設計及び工事監理 4項)。

・延べ面積が500 ㎡を超える学校・病院・劇場・映画館・観覧場・公会堂・集会場・百貨店 ・木造の建築物で高さが13m又は軒の高さが9mを超えるもの
・RC造、S造、石造、レンガ造、CB造、無筋コンクリート造の建築物で延べ面積が300 ㎡、高さが13m又は軒の高さが9mを超えるもの
・延べ面積が1000 ㎡を超え、且つ、階数が2 以上の建築物
(建築士法第3条)

*2 CM(コンストラクションマネジメント)は、専門性の高い技術者が、発注者側で建設プロジェクトをサポートする業務を指します。PM(プロジェクトマネジメント)は、発注者の求める条件に合った予算内・工期内でプロジェクトが完了するようにプロジェクト全体のマネジメントを行うことであり、上記のCMよりさらに広範囲な業務となります。

THEME 02

現場に近い立ち位置で、
課題解決を手助けする

第三者監理に求められる、
ブレない「中立性」

品質へのこだわりはもちろんですが、第三者監理に欠かせない要素である中立性・公平性も当社の強みだと思います。自社の設計案件の現場でもモットーにしていることですが、第三者監理の仕事では、より一層意識するところです。

白坂

例えば、同様に「建設プロジェクトにおける第三者性を確保する」なら、川上から発注者支援の立場で関わるCM/PMという職能もあります。しかし、プロジェクトに第三者監理を置くという選択は、「もっと透明性がほしい」「より現場の近くで、より専門性の高い技術をもって品質を確認してほしい」という要望に基づくものだからでしょう。一般的に、デザインビルドが増えている生産施設や集合住宅などでは、第三者監理の採用が増えていると聞きます。

濱崎

設計者・施工者・監理者が同じ会社だと、社内の立場のようなものもあり、なかなかものを言い合えないこともあるそうです。私たちは、もし協議が必要だと思えば、はっきり指摘します。その分、デザインビルドのプロジェクトの現場定例会議などでは、何となく「アウェイ感」があることもありますが(笑)

それは感じますね(笑) 発注者支援という点ではCM/PMと同じでも、より現場に近いところで仕事をしているぶん、少し立場が違います。ただ、会議で私たちが客観性のある意見を出すことで、クライアントも施工者も納得して課題がスムーズに解決することもある。重要な役目だと思います。

濱崎

相手はずっと年長の作業所長だったりするので、施工に関する知識量などで劣ることもありますが、第三者監理としてプロジェクトに真摯に取り組む姿勢があれば、相手も理解し丁寧に対応してくださるものだと思っています。

白坂

いくら設計がよくても、よい建物ができるとは限らない。その途中の要所で不可欠なのが多種多様な視点です。工事発注段階や、施工中の監理段階でも、さまざまな立場の人が、設計図書、施工図のレビューや現場検査に関わり、意見を交わし合うことが大事。そのプロセスが建物の出来栄えを左右すると言っても過言ではありません。

THEME 03

第三者監理で感じる楽しさと難しさ

ピュアに品質確保を突き詰める

濱崎

設計段階から施工者も参加するデザインビルドのメリットのひとつは、工期やコスト面で合理的な建物がつくれることだと思います。一方、設計・施工者からの報告だけでは透明性を欠くことがあるのが、現場における品質や設計変更に伴う工事費の増減などです。それらを第三者監理で中立的な立場から確認し、関係者に報告することで、プロジェクトに貢献できるのです。

その際、自社の設計・監理物件であれば、品質基準が同じなので設計に意見をすることもできますが、第三者監理だとそこが少し難しいところです。監理者は設計内容・デザインについて設計者の意見を尊重します。ただし、当社にもこれまで培ってきたノウハウがあるので、使い勝手や安全性、品質確保に懸念があれば、クライアントや設計者に対してアドバイスすることがあります。

白坂

最終的にすばらしいデザインや、よりよい使い勝手の建築ができれば設計者が称えられ、高品質の建物ができれば施工者が誉められる。監理者も、もちろん評価されることは多々ありますが、私はあまり表に出すぎず、縁の下の力持ちに徹するほうが良いかなと思うこともあります。飲み会の幹事みたいなもので、みんなが楽しめているかが気になるし、みんなが満足することが何よりなのです。私たち監理者の最終目的は、クライアント含む工事関係者全員の竣工建物に対する満足度の向上なのですから。

濱崎

私は、建築工事の着工から竣工まで一連の監理業務を初めて担当したプロジェクトが第三者監理業務でした。その後、自社の設計・監理物件を担当した時、社内調整などの大変さに驚きました。第三者監理だと、ある意味ピュアにドライに品質確保に専念できる。しかし、自社の設計プロジェクトでは、設計上の不整合があれば設計者と一緒になって調整するので、そこに時間を要してしまいます。監理という仕事は基本的に広く浅くというところから入り、細部を突き詰めていくことで知識も増えていくので、積極的に第三者監理に携わっていくことは技術力向上への近道ではないかと考えています。

三菱鉛筆 横浜ロジスティクスセンター(2021年)

事業所内の既存建物を一部解体し、鉄骨造・4階建ての新たな物流拠点へ再生する計画。ゼネコンによるデザインビルドのプロジェクトにおいて、当社はCMと第三者監理を実施しました。
建物特性に基づき重点管理ポイントを定めて施工前に設計者・施工者と細かな検討を行い、より高品質な建物に仕上げることができました。意思決定プロセスや増減コスト管理での助言を行い、透明性の確保にも貢献しています。

設計者や施工者と共に学び合い、
自社の強みを磨く

白坂

第三者監理は、もともと国土交通省が2000年代初めに導入したのが始まりです。監理を設計者とは別の第三者に委託することで、品質がしっかりと確保されるだけでなく、設計者と第三者監理者、施工者でお互いに切磋琢磨することで各者の技術が向上することを狙ったものだったので、こうした相乗効果は確実にあると感じます。

濱崎

他社設計にも当社とは違うそれぞれのカラーと仕事の流儀があるので、最初はとまどうこともあります。しかし、とても参考になることが多く、それによって当社の特徴、得意分野に気付かされることもあります。先ほど話に出ましたが、竣工後の不具合や建物の使い勝手に対する気配りは、当社のカラーだと言えると思います。

特に竣工後の将来の更新に対する知見の深さでしょうか。設備更新を見据えて大型機器の搬入動線を考えておいたり、改修工事でクレーンをどこに据えるかを計画しておいたり。これも三菱地所時代からのノウハウの蓄積であり、白坂さんや私のようにリノベーション設計部を経験していると、更新や改修時の苦労が身に染みて分かっているんですよね。

濱崎

先ほど述べた通り、デザインビルドの合理的な計画にも学びが多いと感じます。既存建物の地下躯体を利用しながら新築する技術や、仮設足場や工事用エレベータの計画を考慮した平面計画など、真に施工の効率化を考えた設計をしていて感心することも多いです。

こうした第三者監理の業務で得た知識は、社内ワーキング・グループなどを通して水平展開をしています。また、最近は特に建設プロジェクトの初期段階、場合によっては企画・構想段階から監理担当も参加して、施工に関するマネジメントやアドバイスをする業務もフロントローディング的に進めており、まさにそういう時にも知識は活きてきます。今日、第三者監理業務の需要は増している傾向にあります。すでに建設業界における重要な業務のひとつとも言えるのではないでしょうか。

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