Vol.01 設計監理一括プロジェクトの監理業務

社員座談会 三菱地所設計の工務

Round-table: Construction Supervision of MJD

大山 高平

工務部 ユニットリーダー

大学・大学院では日本近代建築史・建築計画を専攻。「よい建築をつくるために設計者と協働できる」仕事を求め、1995年三菱地所に入社。入社後約5年はコストマネジメント業務に従事し、監理業務は24年目。うち2年間は名古屋支店での監理業務も経験。

吉瀬 維昭

工務部 チーフエンジニア

大学・大学院では構造(振動系)を専攻し、2006年三菱地所設計に入社。入社後の4年間で監理、コストマネジメント業務を経験した後、2010年より約6年間、九州支店に配属。その間、監理業務・積算業務物件を20件超担当。2016年より再び工務部で監理業務に従事。

安井 菜月

TOKYO TORCH監理室 エンジニア

大学院のインターンシップ先で監理の仕事を知り、2019年三菱地所設計に入社。初めての仕事「みずほ丸の内タワー・銀行会館・丸の内テラス新築工事」の監理業務を2年間大山ユニットリーダー、吉瀬チーフエンジニアとともに担当。その後、コストマネジメント業務に2年間従事し、5年目の2023年より再びTOKYO TORCH監理室にて監理業務に従事。現在は工務部にも兼務所属。

※役職名は掲載当時の内容になります

THEME 01

「監理」の仕事とその魅力とは

設計図と現場の間をつなぎ、建物の詳細を
一番知ることができる

大山

私たちの所属する工務部は、社内では工務職能と呼ばれ、主に、工事現場でいわゆる「監理」とされる業務を行うチームです。この「監理」という仕事は、建物が実際にどのように建ち、どんな納まりになっているのかを誰よりも知ることができる。工事の分業・細分化が進んでいる今日、誰よりも建物全体を把握していると言ってよいと思います。私にとって、現場に近いのがこの職能の魅力です。

吉瀬

図面が実際の建物になっていく過程で、誰が監理者として関わるかによってそれぞれのこだわりが反映されるのも面白いところですよね。最終的な表面の色・かたちは同じでも、その裏側の下地などの納まりや施工プロセスは決して同じにはならないのです。

安井

正直、学生の頃は、設計者が図面を施工者に渡したあとは、ほぼ「お任せ」で建物が「建つ」ものだと思っていました。でも、就職活動をする中で、設計図と実際に建つ建物の間をつなぐ「監理」という仕事があることを知って興味が湧きました。法的にも工事監理者は定めなければならない存在*ですよね。施工者と違う立場で、工事中も建物の安全性などの性能確保に日々留意しながら、図面の意図を汲み取って品質を守る方法を考える……、そんな重要な役目を任されてみたいなと。でも、工務職能的な仕事の募集は、ゼネコンなどの「施工管理」がほとんど。設計事務所の「監理」もキャリア採用が多い中で、三菱地所設計は新卒の採用をしていたので応募しました。

大山

当社では、前身である三菱地所時代から現在に至るまで、工務職能の新卒採用を継続してきました。こうした組織は日本には他にありませんし、工務職能が三菱地所グループの中でも重要な役割を担ってきたことの表れとも言えます。

吉瀬

即戦力として現場経験者も求められるので、現在工務部に所属する40数名のうち、約半数はキャリア入社です。しかし、逆を言うと約半数は新卒入社なのが当社の特徴のひとつになっています。当社の監理業務ではデザイン性だけでなく、建築の使われ方(機能面・安全面)なども十分に配慮します。新卒採用で入社すると、若いうちからクライアント・設計者・施工者と一緒になって、監理者としてのものづくりのマインドを高めていくことができますね。

大山

現場に入る時は数名でチームを組むことが多いので、さまざまなバックグラウンドをもったメンバーのスキルが融合されます。大型現場になるとベテラン、中堅、若手、新人をバランスよく配置しています。新人時代にいろんな人の仕事の仕方や価値観に触れることで、より広い視野をもった監理者に成長できると思います。

*建築基準法上の工事監理者の位置付け
建築基準法上、建物の建築主は下記の一定規模を超える建物を建てる際には「建築士法に規定する建築士である工事監理者を定めなければならない」とされています(建築基準法第5条の4 建築物の設計及び工事監理 4項)。

・延べ面積が500 ㎡を超える学校・病院・劇場・映画館・観覧場・公会堂・集会場・百貨店 ・木造の建築物で高さが13m又は軒の高さが9mを超えるもの
・RC造、S造、石造、レンガ造、CB造、無筋コンクリート造の建築物で延べ面積が300 ㎡、高さが13m又は軒の高さが9mを超えるもの
・延べ面積が1000 ㎡を超え、且つ、階数が2 以上の建築物
(建築士法第3条)

THEME 02

プロジェクトへの関わり方と考え方

妥当な施工方法や工期を見極める

大山

私たちのチームが担当した某大規模再開発では、私は2016年初めの実施設計終盤からプロジェクトに参加しました。その半年後に解体工事が始まり、2018年1月に新築着工。2020年9月に竣工するまでの4年半以上、監理を担当しました。

吉瀬

設計はその数年前からスタートしているので、かなり長期のプロジェクトでしたね。工務部では、企画や基本設計の途中で、設計者から工事計画や工法について相談を受けたり、概算工期を算出したりします。例えば、敷地境界ギリギリに建物を設計する時に「実際に建てることができる計画か」「どれくらい工事期間がかかるか」といった検討や助言をします。

大山

多くの場合、私たちが本格的にプロジェクトに参加するのは施工者を選定するタイミングです。実施設計図などをもとに工事上の前提や制約条件を洗い出すのが最初の重要な仕事のひとつです。この再開発のように既存建物がある場合、内部を確認して、解体工事発注のための特記事項を洗い出します。またクライアントのニーズに合わせて施工者を分離して発注することもあるので、そのルールづくりなどの施工条件も整えます。

吉瀬

施工者から工事費と施工提案書が上がってきたら、コストコンサルティング部と協働し、いくらでどのように施工しようとしているのか、その妥当性を確認します。施工者は、数年先を見据えて工事費や工期を提示してくるため、判断は容易ではありませんが、安全を取りすぎても、リスクを取りすぎてもいけない。工期、計画、工事費の妥当性を見極めて、クライアントの工事契約をサポートします。

安井

実際に工事が始まれば、私たちは施工者と協議、調整しながら、工程や工事費の変動がないよう日々モニタリングすることになるので、その見極めの精度が高ければ高いほど、その後のプロジェクト運営がスムーズになると感じます。

大山

ただし昨今の建設業界は、資材高騰や働き方改革、労働力不足などの波が次々に押し寄せてきている状況。ノウハウをもとに十分な検討を行っても、やってみないとわからない部分がどうしても残ることもあります。これまでは、「当初決めた工期や工事費は最後まで守り切るべき」という風潮もありましたが、この急激な変革へのクライアント側からの理解も進みつつあり、今まさに時代が変わってきていると感じます。

THEME 03

三菱地所設計の監理の特徴、強みとは

豊富なノウハウや経験に基づく
「品質へのこだわり」

吉瀬

私たちがもっとも大切にしているのは、「品質へのこだわり」です。 当社のルーツは三菱地所の設計監理部門なので、よりクライアントに寄り添ったスタンスで、より高い品質を達成することを強く意識してきました。図面の意図を汲み取って品質を守るだけでなく、ノウハウや経験などをもとに「もっとこうした方がよくなる」と味付けをしていく感じですね。

安井

それに一役買っているのが「アフター」と呼ばれる竣工後の不具合対応業務です。工事中は最善策だと判断したものに対しても、こうした竣工後のフォローアップを行うことにより、「もう少しこうしていたら……」という気づきが出てきます。監理には絶対的な正解がありませんので、こうした気づきを次の現場に活かし続けていきます。

大山

同様に施工者にも経験に基づくこだわりがあるので、実際にどう納めるのか意見が対立することもあります。みんな技術者なのでこだわりは強いですが、「より良いものをつくりたい」「後に修繕費が嵩むようなものにはしない」といった目指す方向は一致しているので、知恵の出し合いになります。

安井

そんな時は、会社に蓄積されたノウハウも手助けになります。参考になる過去事例がないか、膨大な量の図面アーカイブをあたってみたりしますが、図面にはその寸法の根拠までは書いてありません。自分なりに解釈して、先輩方に確認し、時には社内で議論をしながら進めていきます。先の再開発プロジェクトの監理事務所は雰囲気がよくて、今でも思い出します。仕事終わりに飲みに行った時には、先輩・後輩の関係なく、技術論をぶつけ合いました。

小規模から高難度まで、多彩な
プロジェクトを同時に進める

吉瀬

当社の設計監理業務で最大のウエイトを占めているオフィスビルに関しては、その監理の実績・ノウハウも同業他社より優位性があると思います。また、三菱地所グループのテナントリーシング案件は「同時竣工」と言って、建物の竣工とほぼ同時にテナントエリアを供用開始することも多い。例えば、私が担当した「ふかや花園プレミアム・アウトレット」は竣工からたった3週間後に全面開業しました。100軒を超える商業テナントと設計や工事に関する調整をしながら、開業と同時に店舗をオープンできるマネジメント力は同業他社にはない強みだと思います。工事途中にいきなり無理難題な設計変更を言われることもありますが、テナントは「当社のクライアントにとっての顧客」です。施工者や設計者、クライアントとも調整をして、実現に向けて最大限の努力をします。

オープンを目前に控えた「ふかや花園プレミアム・アウトレット」(2022年)

安井

現場が始まって特に重要視するのはモノ決めの工程ですよね。「いつまでにこれを決めておかないと、竣工に間に合わない。」日々それを中立の立場で差配するのが私たち監理者で、プロジェクトの旗振り役を担うことも多いです。

大山

特に近年増えているホテルのプロジェクトは、クライアントとホテルの運営事業者が異なっていたり、彼らのお抱えのインテリアデザイナーがいたりと、とにかく関係者が多く、モノ決めの工程も多い。豊富な経験とノウハウがないと太刀打ちできません。私たちは都市型のビジネスホテルから日本初進出の外資系5つ星ホテル、リゾートホテルまで手がけていますので、当社監理業務の得意分野のひとつにしていきたいですね。

吉瀬

ひとつの現場で数年に亘り引き渡しまで担当すると多くのことが分かるのですが、施設用途や構造・規模が違えば、品質管理のポイントも、モノ決めの工程も全然違ってきます。そのため、なるべく多くさまざまな施設用途の現場を経験すべきかと思います。新卒入社の場合は、監理者としてより多くの新築現場を経験できる機会に恵まれるのも魅力ですね。

大山

大小さまざまな現場を並行して監理を経験できるのも、当社監理業務の特徴的な教育方針となっていると思います。それによって知識量が加速度的に増えるんですよね。

安井

現在、私のメインの仕事は超大規模で難易度の高い「TOKYO TORCH Torch Tower」(約54万㎡)ですが、少規模(約2,000㎡)な物件も同時に担当させてもらっています。

吉瀬

私は今、都内の9万㎡の現場を主として、北陸の2万㎡と1,500㎡の現場も担当しています。コロナ禍を経て、打ち合わせや、現場の品質確認がリモートでできるようになったり、図面をクラウドで共有したりするようになったりと業務環境は劇的に変化し、時間を有効に使えるようになりました。

THEME 04

一人前の監理者になるための
心得とは

現場でイメージトレーニングを重ね、
数年で一人前に

吉瀬

工事現場の監理のリーダーを任されるようになるまでに10年はかかりません。中小規模であれば、ひとりで十分担当できるようになる。新人の頃は大抵、大型現場の監理事務所に配属されるので、上司や先輩の仕事ぶりをよく観察するようにと伝えています。そして、次の現場では君がやるんだよ、と「数年で一人前」を目指すような意識付けをしています。

安井

私も最初の現場では上司の背中を見ながら、自分だったらどうするか、というイメージトレーニングを重ねました。監理の仕事は自分だけでは学べないことばかり。悩むことも多いですが、OJT制度もありますし、業務上説明するのが上手な先輩方ばかりなので相談はしやすいですね。

大山

言うまでもなく、建築はひとりで建てるものではありません。施工者をはじめ現場の職人さん、部品をつくるひとや、それを運んでくれるひとも含め、彼らとパートナーシップを上手に構築しながら、関係者がそれぞれ実力を発揮できる環境をつくることが、私たち工務職能に求められる使命だと思っています。それは机上では学べません。どの仕事にも共通することですが、必要なのはコミュニケーション力。いわゆる「人当たりのよさ」だけでなく、それぞれのアプローチがあってよいので、目の前のひとと仲良くなれるコミュニケーション力を培うことが重要ですね。

「監理はサービス業」という
伝統的精神

大山

当社が伝統として持ち続けているのが、何事にも「これは私たちの仕事ではない」などといって逃げない責任感やマインドです。 工事のあらゆるシーンで発生するさまざまな疑問や悩みに応える立場として、その受け皿は非常に大きいと思います。

吉瀬

最初の上司に言われた「監理はサービス業だから」という言葉の意味が年々よくわかるようになってきました。現代社会では薄れがちなマインドですが、これは当社が長年培ってきたよさのひとつです。

大山

先程の「アフター」の業務にも通じるものがあります。竣工後に不具合が生じた場合、まず施工者が対応するケースが多いですが、最初に私たち監理者に相談してくれるクライアントも多いです。積極的なフォローアップや、修繕方法が適切かどうかといった相談に乗りアドバイスをするのも、三菱地所時代からの伝統だと思います。

吉瀬

しかも当社の場合は、設計者や営業部門ではなく監理者へ直に話をいただくことが多い。いかに当社の監理者が現場で前面に立っているかの表れだと思います。設計から工事の内容まで、その建物のことを隅々まで知っている自負があります。

安井

監理業務の醍醐味には、現場のものづくりの最前線にいる楽しさや面白さがあると同時に、日々ひとつひとつの判断が品質に直結する緊張感、ヒリヒリ感もあります。監理者は、設計者でも施工者でもないけれど、建物のできる過程に、ある意味「自分が一番携わった」と自信をもって言える役割です。そこに、やりがいを感じています。

現場事務所にて。三菱地所設計の工務部ほかプロジェクト関係者

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