高砂熱学工業株式会社、株式会社三菱地所設計は、田辺新一教授(早稲田大学)、赤司泰義教授(東京大学)とともに、「高砂熱学イノベーションセンター」(茨城県つくばみらい市/以下、本施設。本賞への応募対象はオフィス棟)にて、空気調和・冷暖房に関する世界最大の国際学会 米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)が開催する「ASHRAE Technology awards 2024」の地域カンファレンスASHRAE Region XIII 26th Chapters Regional Conferenceで最高得点を獲得し、アジア地域最優秀賞を受賞したことをお知らせします(賞発表:2023年8月19日)。
本施設では、地域の特性を生かした再生可能エネルギーを積極的に活用。地下水熱・バイオマスCHP(熱電併給/次頁参照)・太陽光発電を、大規模蓄電システムと組み合わせることでオフグリッド化(電力の自給自足が成立している状態)を実現しています。本成果は、自然災害に対するレジリエンスの強靭化が要求される日本において、特に有用なシステムであると考えます。
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米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE/American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)は、132カ国・5万人以上の会員を擁する、空気調和・冷暖房に関する世界最大の国際的学会。1894年創設、本部:米国アトランタ。 https://www.ashrae.org/
世界規模の環境建築技術賞・ASHRAE Technology awards
「ASHRAE Technology awards」(1999年~、毎年開催)は、省エネ・快適性やユーザの健康などを兼ね備えた、革新的な環境建築に対する世界最大規模の技術賞です。審査には、設計時の性能だけでなく、実運用データによる裏付けが求められるため、建築・設備関係者からも高い信頼を集めています。今回の受賞は、世界を15地域に分け、各地域の最優秀賞を選ぶもので、シンガポール、韓国、台湾などを含む「Region XⅢ」(アジア地域)における「First Place」(最優秀賞)の評価を得たものです。これにより全世界最優秀選考の地域代表に選出されました。日本、そしてアジアの代表として「世界一の環境建築」に臨みます。
賞評価のポイント:『高砂熱学イノベーションセンター』の
技術的新規性
①【新開発技術】大容量蓄電池用エネルギーマネジメントシステム
本施設では、大容量蓄電池を最適制御する新たなエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発・導入。
本EMSでは、敷地内電力負荷及び日射量を数日先まで予測し、太陽光発電およびバイオマスCHP※の予測発電量を基に蓄電池の蓄電/放電の最適制御を行うことで、オフィス棟の電力オフグリッド化を実現。外部電力網に頼らない施設運用が可能です。
バイオマスCHP(Combined Heat and Power=熱電併給):発電時に生じる排熱を利活用する省エネ手法。本施設のバイオマスCHPは、その一連の発電プロセス(木質チップを加熱・熱分解して高温の可燃性ガスを生成し、ガスエンジンに投入して発電に使用する)において、クーラーやエンジンの冷却で得られた排熱を、熱交換器を介して温水として施設に供給します。
上図:オフグリッドを実現したEMS。施設の電力需要・発電量の予測から、各発電機+蓄電池の運転を可視化し、最適制御します。
下図:オフィス棟のエネルギー消費量のシミュレーション(ASHRAE 90.1)では、ASHRAEが定める基準値(421MJ/m2/年)に対して、設計値(-130MJ/m2/年)は131%の省エネとなることが示されました(バイオマスCHP×1台稼働の場合)。
竣工後の実測調査(2021年度)では、継続的な運用改善で、設計値からさらに14.3%のエネルギー消費量の削減に成功。太陽光パネルとバイオマスCHP×2台の発電量を加えると、一次エネルギー消費量(正味量:-263MJ/m2/年)は基準値からマイナス162%の省エネに。カーボンニュートラルを達成しました。
②【新開発技術】冷暖房の省エネ化に有効な地下水熱を直接利用した
2つの空調システム
地下水熱を用いた空調の実現に向け2つの技術を開発し、執務スペースに導入しました。
(1)システム天井対応放射パネル
従来、天井放射パネルは室内で画一的に制御されることが一般的でしたが、ここでは負荷分布に応じて細かく制御するシステムを開発し、冷温水の搬送動力の削減を図りました。600mm角パネル12枚を1ユニットとし、パネル表面の温度に応じて送水を制御しています。
(2)3種のパーソナル空調機
個人の温冷感覚に合わせて冷暖房が可能なパーソナル空調機を開発しました。執務スペースでパーソナル空調機を利用するワーカーを対象とした温熱環境の満足度調査からは、高い評価が確認できました。
❶ 向かい合うデスクの間に設けられる「パーテション型」、❷ テーブル等の天板下部に設置できる「デスク型」、❸ 放射空調パネルの間に設けられている「天井設置型」。
③ 再生可能エネルギーを利用した熱源の高効率な運用の実現で、環境負荷を最小限に
本施設では、中央監視システムをクラウド化することで、専門の設備管理者が常駐せずとも全ての機器を統合的に管理するとともに、下記システムの効率的な運用・迅速な改善に寄与しています。
(1)地下水熱の利用
年間を通じた地下水熱の水温モニタリングから安定した平均温度(16.6℃)であることを把握。この利用により、夏季のエネルギー消費効率(COP)は平均7.8と、空冷HPチラーの場合(4.1)に対して非常に高効率な運用を実現しました。この地下水熱は、本施設の冷熱需要の63%を賄っています。
(2)バイオマスCHP
高効率運用(総合効率77%)により、施設全体の空調の温熱需要のほとんど(91%)をバイオマスCHPの熱で賄うことに成功。バイオマスCHPは2機を設置し交互に定期メンテナンスを可能とし、安定運用に寄与しています。
再生可能エネルギーの積極的な利用と、システムの高効率化への改善を重ね、発電量を加味するとオフィス棟では運用時のCO2排出量は年間でマイナス159トンとなり、完全なCO2排出量ゼロを実現しました。また、地下水熱・バイオマスCHPを利用した熱源システムは、CO2だけでなくフロンガス使用量も削減。環境負荷を最小限としています。
なお、本施設では敷地全体においても水力発電由来のグリーン電力の購入によりカーボンニュートラルを実現しています。
資料:国内における『高砂熱学イノベーションセンター』の評価について
本施設は、これまでに下記の賞を受賞しています。
2022年 6月 | 第33回電気設備学会賞 技術部門 優秀施設賞(主催:電気設備学会) 『高砂熱学イノベーションセンターの『ZEB』を目指した電気設備』 |
2022年 6月 | 令和4年度デマンドサイドマネジメント表彰 総合システム部門 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター振興賞(主催:ヒートポンプ・蓄熱センター) 『~環境負荷低減と知的生産性向上を両立したサスティナブル研究施設~高砂熱学イノベーションセンター』 |
2023年 5月 | 第 61 回学会賞技術賞 建築設備部門(主催:空気調和・衛生工学会) 『高砂熱学イノベーションセンターにおける環境・設備計画と実施』 |
2023年 5月 | 第21回環境・設備デザイン賞 第Ⅱ部門:建築・設備統合デザイン部門 優秀賞(主催:建築設備綜合協会) 『高砂熱学イノベーションセンター』 |
2023年 6月 | 第11回カーボンニュートラル大賞(主催:建築設備技術者協会) 『高砂熱学イノベーションセンター 環境負荷低減と知的生産性向上を両立した研究施設』 |
建築概要
Data
建物名称 | 高砂熱学イノベーションセンター |
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所在地 | 茨城県つくばみらい市富士見ヶ丘 2-19 |
用途 | 研究施設 |
敷地面積 | 22,746.18㎡ |
建築面積 | 7,129.74㎡ |
延床面積 | 11,763.97㎡ |
階数 | 地上2階、塔屋1階 最高高さ:15.455m |
構造形式 | 地上S造、一部RC造 |
取得認証 | CASBEE ウェルネスオフィス(2020年版):Sランク |
計画・開発・検証・評価 | 高砂熱学工業株式会社 |
設計(※1)・監理・検証・評価 | 株式会社三菱地所設計 |
設計(※2)・施工 | 株式会社竹中工務店 |
施工 | 株式会社関電工、株式会社ヤマト、高砂熱学工業株式会社 関信越支店 |
検証・評価 | 田辺 新一(早稲田大学教授)、赤司 泰義(東京大学教授)、鵜飼 真成(早稲田大学講師)、宮田 翔平(東京大学助教) |
※1:基本設計、実施設計(空調・衛生・電気) |
右:オフィス棟中央の吹き抜け。
以上
本件に関するお問合せ先
高砂熱学工業株式会社 コーポレート・コミュニケーション室
TEL 03 -6369-8215
株式会社三菱地所設計 経営企画部広報室
TEL 03-3287-5001