2024.07.12

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.15

木と調和した快適な空間を実現するためのアイデア

熊本東京海上日動ビルディング

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地方創生に向けて県産木材を活用したオフィスビル

2050年を目標としたカーボンニュートラル社会の実現に向けて、近年、建築への木材活用に注目が集まっています。「熊本東京海上日動ビルディング」(2020年)では、熊本県産の木材を構造材や内装材など各部材に活用することで、地域へ貢献するとともに同県産木材の魅力を発信する建物となっています。

本プロジェクトは、照明や空調などの建築設備も、木材の特性を生かしたデザインと調和させることで木をより身近に感じることができる空間を目指しました。
ここでは、空調吹き出し口の設計の取り組みについて掘り下げます。

外観。耐火建築物としてのあり方や耐久性も考慮に入れ、外部に木を露出せずにガラス越しに木が見える外装としています。

来館者がまず訪れるエントランスホールには、壁・天井の全面にスギ材を利用しています。照明や空調の吹き出し口は壁面に目立たないよう仕込み、木ならではの空間性を引き立てながら、同時に快適な環境も実現しています。

エントランスホール。壁面上端部と天井の隙間にライン型吹き出し口と間接照明を並べて設置しています。

「木ならではの空間性」を空調吹き出し口まで

執務室内の窓際には、鉄骨と木を組み合わせ、表面を集成材で仕上げた耐震間柱が並び、その天井面にも木を利用しており、執務室全体が温かみのある空間となっています。この天井に一般的な金属性の吹き出し口を設置すると木がつくりだす空間の雰囲気を損ねてしまうため、天井と同じ木製パネルを用いた吹き出し口を製作しました。

木製パネルにはたくさんの小さな孔が開けられており、パネル裏に設置されたチャンバーボックスへ流入した空調空気がこの孔から低風速で吹き出します。低風速とすることで不快なドラフト(気流感)を感じにくくなり、執務者の快適性の向上につながります。また、木の材質の特性として湿気による反り等が懸念されますが、今回の木製パネルには18mmの厚みをもたせることで湿気の影響を防いでいます。

ペリメーターゾーン。天井面の木製パネルと調和したデザインの空調吹き出し口。

実証実験により心地よいワークスペースを実現

木製パネルの吹き出し口について詳細な仕様を決定するため、メーカーに協力いただき実証実験を行いました。異なる孔のサイズ・配置をした複数パターンの吹き出し口を設けた木製パネルを用意し、それぞれから吹き出す空気の流れを可視化していきました。

木製パネルから吹き出す風速が速いと気流を強く感じてしまい、逆に遅いと空気が拡散せずに滞留して空調空気が行き届かなくなります。実証実験を繰り返して、気流感もちょうどよく、またパネル全体から空気が均等に吹き出す最適な木製パネルの仕様を決定しました。現地でも実際に吹き出し口の下に座って、心地の良い気流感を体感しました。

スモークマシンを用いて吹き出した空気にレーザーを当てて、その拡散性状を確認しました。

こうした実験を経て、窓まわりに快適な空調環境を備えた執務空間を創出することができました。木ならではの雰囲気づくりを設備機器のあり方にいたるまでこだわり抜いた空間に呼応するように、現在はクライアントにより木製の家具が配置され、まちを眺めながら打ち合わせなどができるワークスペースとして利用されています。

木の内装に合わせてクライアントが木製家具を配置。

Designer's Voice

設計者

機械設備設計部 / 2016年入社

内田 俊平

Uchida Shumpei

お互いが最適であると考えるものをそれぞれ設計した結果、意匠設計者と設備設計者の考えが食い違ってしまうことがあります。本物件においても当初は木の内装に設備器具を設置したくない、と考える意匠設計者と意見の相違がありましたが、どのような空間を目指すかを細かく相談し、調整を進めていきました。
この木製パネル吹き出し口もその中で出てきたアイデアのひとつでした。結果として、皆が最適だと思えるものをかたちにすることができたと感じています。
※所属はプロジェクト担当時点

Data

物件名

熊本東京海上日動ビルディング

所在地

熊本県熊本市中央区水道町5-15

敷地面積

約1,149㎡

延床面積

約7,873㎡

規模

地上7階、地下1階、塔屋1階

構造

鉄骨造、RC造

主要用途

事務所、駐車場

竣工

2020年4月

設計・監理

三菱地所設計

施工

大成建設

受賞
  • ウッドデザイン賞2020

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