常に進化を続けるアウトレットモールでは、求められる電気設備も多岐にわたります。今回は、その中から「買い物をするだけでなく、訪れる『体験』のデザインに寄与する電気設備」をご紹介します。
新たな「にぎわい空間」を「光」でデザインする
今までのアウトレットモールとは異なり、柱のない軒などで開放感を高めた「ふかや花園プレミアム・アウトレット」のストリート(街路)。その照明計画には、その広々とした印象を損なわないため、店舗の入口やベンチの周囲など、人が集まり留まる部分に光を集める計画としました。
ストリートの建物側には、軒下にライン照明を設置(①)。乳白色のカバーによりまぶしさに配慮した器具とし足元の必要な光を確保しつつ、「演出照明」として店舗間の柱を照らす柱照明(②)と、店舗入口の高い位置にダウンライトを配し(③)、にぎやかな印象を創出しています。②は、店舗内の明るさに負けない中角のスポットライトで壁面の明るさ感を、③の店舗入口前には広角ダウンライトで人を呼び込む光だまりをつくっています。
ストリート中央部では、ベンチの間接照明や什器照明などの低い位置に光を設けて落ち着いた空間をつくりました。「光の重心」を店舗側と変えることで、開放的な空間にメリハリをつけ、居心地が良く奥行きのあるシームレスな空間を演出しています。
(右)ストリート上の照度シミュレーション。検証を繰り返し、モックアップ作成を経て実現しました。
照明計画で「施設の顔」をつくる
国道から最初に目に付く建物をサインとして活用し、外壁を照明演出で照らし上げました。
白色のメッシュパネルに覆われた外壁は、夜間にこれを内側から照らすことで、さまざまな色彩によるフォトジェニックな絵柄が浮かび上がる演出とし、「来る時」「帰る時」で全く異なる印象を来場者に与えます。地域の新たなランドマークとなるアートウォールをつくり上げました。
同じく本施設のシンボルとなる大屋根広場では、照明器具を大屋根の支柱に設置しています。限られた位置から照射面に光ムラや支柱の影が映らないようにするため、事前に3Dシミュレーションで適切な設置方向・首振り角度を検証しました。フルカラーLEDの照明器具を用いて季節により異なる演出を可能に。何度訪れても楽しめる工夫です。
(右2点)3Dシミュレーションにより、照明器具の影が映らないよう配置と角度を調整しました。
現代の施設ニーズを解く「電気設備」の多様な仕事
オープン以降の施設運用をより良くするためのIT技術を活用しました。
■ 駐車場利用状況の把握
駐車場の利用状況のデータ分析、出入り口付近の監視カメラの画像解析からは施設の繁忙状況の把握、車両誘導員や施設案内員の適切な配置、来場車両のナンバープレートをマーケティングに活用できる設備を計画しました。
(右)駐車場入口に設けられた画像解析用カメラ。
■ さまざまなカメラ設備と画像解析で、今後につながるデータを取得
駐車場入口の画像解析用のカメラに加え、各エントランスの監視カメラを画像解析ソフトと連携させることで、「入る人」「出る人」を検知し来場者の分析が可能です。分析データについては、各エントランスの利用頻度の把握にとどまらず、トイレなど共用部の施設計画における活用を期待しています。
■ 施設の安心・安全を支えるセキュリティ設備
広域かつ多数の出入口がある施設ではセキュリティもまた重要です。入退場者の差から閉店間際に敷地内に残っている人数を把握すれば、管理や見回りの効率化が期待されます。画像解析ソフト上で警戒エリアを設定し、営業時間外に人影を検知すると警報を発するシステムを導入し、設備の技術で巡回の省力化や防犯面の強化を図ることができました。
Designer's Voice
設計者
電気設備設計部 / 2021年入社
冨山 凌
Tomiyama Ryo
今日では予想もつかない技術が当たり前のように普及しているであろう将来に向け、50年、100年と使われ続ける建築を設計するにあたり、今、何を見据えておくのか。事故なく設備寿命を迎え、数10年後の更新や増築のタイミングで「この時を見越して設計されていたんだ」と思ってもらえるかどうかに、電気設備設計者の腕の見せ所があるのではないかと思います。
※所属はプロジェクト担当時点
Data
物件名 | |
---|---|
所在地 | 埼玉県深谷市花園1番地 |
敷地面積 | 約195,700m² |
延床面積 | 約34,577m² |
規模 | 地上1階(一部地上2階) |
竣工 | 2022年9月 |
主要用途 | アウトレットモール(店舗、飲食店ほか) |
設計・監理 | 三菱地所設計 |
施工 | 大成建設 |
受賞 |
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Update : 2022.11.10