2021.03.30

R&D WORKS Vol.18

サンシャイン水族館「クラゲパノラマ」

ビルのフロアをクラゲの海で包み込む。

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ほの暗い海中で、フワフワと浮遊する無数のミズクラゲに包み込まれる癒しの時間。それを体験できるのは、複合ビルの10階です。天井高いっぱい、横幅約14mもの巨大な曲面水槽が来場者を圧倒しているのが、サンシャイン水族館に新設されたクラゲパノラマ。厳しい荷重制限のあるビル上階で、フロアを包み込むほどの大きな水槽を設置するのは至難の業です。夢の世界の背景には、さまざまな技術が隠されています。

サンシャイン水族館「海月空感」クラゲパノラマ。

ビル最上階に現れた壁一面の曲面水槽

海から遠い東京・池袋のまちで、しかも商業施設の上階という特殊な立地に来館者を集めるため、サンシャイン水族館では、これまでさまざまな展示手法が繰り出されてきました。屋上を利用し、アシカやペリカンを下から見上げることのできる水槽や、天空を背景にペンギンが飛ぶように泳ぎまわる水槽などが話題を呼んできました。そして2020年、室内メイン展示のひとつとして新クラゲエリア「海月空感(くらげくうかん)」にクラゲパノラマ水槽を新設。日本最大級の横幅をもつクラゲ水槽です。

「クラゲの海に包まれる」というコンセプトを実現するため、横幅約14mの特大水槽をカーブさせて、床から天井ギリギリまで海水を満たし、来場者を囲むことが計画されました。しかし建物床には耐荷重制限があるため、ここで用いることのできる水量には限界があります。

そこで、水槽の奥行きは1m強に抑えられました。梁間を横断するサイズの巨大水槽を設置する際、本来は梁下に支持架構を組みますが、水槽の高さを追求した結果、支持鉄骨部材を梁横に固定する方法をとりました。包まれる感覚をさらに補うのが、水槽と天井の際に設けた深い庇。これは水槽から1500mmほど展示室側に張り出すように設置され、奥行300mm近くある低い窓台と向き合わせ、ともにミラーステンレスを貼ることで、水槽の景色を映し込み、増幅させる効果をねらわれたものです。

クラゲパノラマ全景(カーテン開放時)。
フロントパネルは3枚の85mm厚の曲面アクリルを現場でつなぎ合わせた。

クラゲを演出する水流と照明

クラゲは遊泳能力が乏しく、沈んでしまうと死んでしまいます。どんなに小さな水槽でも、人工的に水流をつくり、クラゲが沈まないようにします。この水槽では、水流をつくるための整流板や多数の吐出管を設けることで、クラゲをコントロールしています。来場者から見て手前側は下から上へ、水面近くでは奧側へ、奧側では上から下へ…という水流の循環が、水槽全体で発生しています。

錯覚により奥行き感をつくり出すために、壁に光を当てず、クラゲだけを照らし出す照明も工夫がなされています。ここでは、レンズやフィルターを使用した演出も検討されましたが、遮光板のみを使用して照明をコントロールし、スポットライトのように光のカタチをデザインしています。水面のすぐ上には耐塩害照明を設置。陽光がほのかに注ぐような光景を生んでいます。

実は、観覧エリアの天井にも水が張られた波紋照明が仕込まれています。この天井波紋水槽は4箇所のスクリューで制御され、海底にうつる波の揺らぎが再現され、水中感を演出しています。

波紋照明。粘度の高い水を張り、スクリューを制御して波を再現。
クラゲパノラマ断面図

裏方の技術とメンテナンス計画

水族館はバックヤードが重要です。エサやりや清掃などのメンテナンスは通常、水槽の上から行いますが、ここではその空間をどこまで省スペース化できるかも、設計上の課題となりました。天井裏に余地がほとんどないなか、設備を設置しました。そして、これを縫うように、工程の最後で現場造作の木製メンテナンスブリッジが組み立てられていきました。梁を避け、一部ほふく前進が必要な部分もありますが、全部で3箇所のアプローチを設けることができました。

クラゲスクリーン。クラゲパノラマと同時に新設した工場製作のユニット水槽。
触手の長いシーネットルの仲間を展示。

建築概要

建築主|株式会社サンシャインシティ
設計者|株式会社三菱地所設計 大成建設株式会社一級建築士事務所
施工者|大成建設株式会社
サンシャイン水族館様の公式HPはこちらをご覧ください。
海月空感のリニューアルを手がけた水族館プロデューサーの中村元様のインタビューをR&D DISCUSSION vol.30-32にて公開中です。


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