建物の熱負荷はこの十数年で少しずつ軽減されてきました。高性能ガラスによって日射が抑えられ、構造体の温度上昇は減少傾向にあります。照明のLED化やPCの消費電力減で、内部発熱負荷も減ってきました。しかし夏の気温が上昇傾向にある外気を換気するときの負荷だけは、下がるどころか増加傾向にあります。この問題を解決すべく、換気負荷を抑える技術開発を始めました。それは分子レベルの孔の開いた膜を通じて、室内の二酸化炭素と外気の酸素を交換するシステムです。
換気によって生じる熱負荷の問題
良い空気環境は、温度湿度の管理だけでは生まれません。汚れた空気を清浄することが必要です。そのために必ず外気との換気を行わねばなりません。もちろんウィルスの排出にも換気は不可欠です。しかしこの換気が最も建物に熱負荷を掛けてしまいます。せっかく冷えた/暖めた空気を、また元の温度に戻すのです。これは熱環境技術にとって積年のジレンマでした。従来の「通常換気」は外気をそのまま室内に取入れますから、その分すべてが負担になります。そこで排出する室内空気と採り入れる外気をパイプなどで接触させ、熱を交換する「全熱交換換気」を行うと、熱負担は半分程度に下がります。しかし換気そのものの負担は絶対量が大きいのでこれをさらに下げるべく、換気以外の方法で新鮮な空気に変えてゆく技術開発を始めました。注目したのがガス透過膜換気システムです。
ガス交換によって新鮮な空気に変える
換気をせずに空気を浄化する方法に、フィルターによる空気清浄がありますが、粉塵や花粉などの粒子の大きな物質を除くことしかできません。また、二酸化炭素濃度を下げるような方法は換気しかありませんでした。そこでそれを両立させるため開発したのが膜によるガス交換です。10nm以下の微細孔のある膜の内側と外側のCO2濃度に違いがあるとき、濃度の高い方から低い方へCO2は移動します。この性質を利用し、室内のCO2を屋外空気へ移動させる仕組みです。同時に外気のO2は室内空気へ移動。こうして、室内外でCO2、O2のガス交換を行います。
このCO2膜分離装置の膜は直径2mm程度のチューブ状になっており、その中に室内空気を通し、外側に外気を通すシステム。チューブは800本ほどが集められて1本のユニットになり、それを96本並べて1つのボックスを形成します。ユニットチューブの中に室内空気を通過させ、ボックス内に外気を通過させて、ガス交換を行います。
CO2膜分離装置の効果
このシステムを使った最も効率の良い方法は、外気の代わりにビル内の余剰空気を利用することです。その場合、動力の消費エネルギーは通常換気に比べて50%、全熱交換器に比べて20%低下することが実証実験で得られています。現状の技術では、CO2膜分離装置1基につき20人分の排出CO2を処理できる計算で、まだビルの全換気量を処理するまでには至っておらず、通常換気、全熱交換器と併用することになります。しかしこの容量は増える方向で進化します。
近年は屋外空気が必ずしも清浄ではありません。時季によっては花粉やPM2.5などの有害物質を含むので、高性能フィルターを用いない限り、換気そのものを抑えざるを得ないケースも出てきます。その際の問題解決法の1つが、この膜分離装置です。現在、換気で排出することが推奨されるエアロゾルについても膜分離装置で除去できる機能を付加することも検討されています。
ガス透過膜換気システムSEPERNA®
共同開発|川崎重工業株式会社
SEPERNA®詳細情報は川崎重工業様のHPをご覧ください。
※「SEPERNA」は、川崎重工業株式会社の登録商標です。
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Update : 2019.01.17