いま働き方は大きな変革期を迎えています。そのひとつとして注目されているのが、ABW (activity-based working)。好きな環境を自分の作業に合わせて選ぶという考え方です。しかし、誰がどこで作業しているのか把握できないという課題がありました。チームワークの形成やワーカー管理の障害になります。この課題を解決すべく開発したのがこの新たな位置情報システムなのですが、新規に専用ポートやデバイスを用意する必要はありません。どのオフィスにも必ず設置される空調機さえあれば、パソコンの位置を検知することでワーカーの居場所をみんなで共有できるのです。
天井に設置された空調機を介してワーカーのPC端末位置を収集する。
誰がどこで作業しているのか把握できない
ABW (activity-based working)――好きな環境を自分の作業に合わせて選ぶという考え方がいま注目されています。90年代からフリーアドレスは試みられてきました。それは1つの画一的な大テーブルをシェアするケースが多く、自分の居場所を無くすとしてネガティブに捉えられることもありました。一方ABWは個別のデスクや居場所が多数用意され、ワーカーがそれを選択できるというスタイル。環境の違いがさまざまに用意されることで、自分にあった作業場所を見つけることができます。
このABWスタイルの課題は「誰がどこで作業しているのか把握できない」ことでした。それはコミュニケーションの促進やチームワーク形成を困難にします。居場所がわからなければ目的の相手と接触、集合できないのです。また定期的な対面の機会を失うので、上司と部下、先輩と後輩の間のコミュニケーションも不足して、指導教育や評価が不十分になります。
さらに近年リモートワークが促進されるにつれ、居場所を把握したい需要は増える一方。この機に新たな位置情報システムの可能性を探りました。既存にリアルタイムの位置検知システムは存在します。空間にいくつかポートを設置し、移動するモノやヒトにデバイスを装着して、その位置を測定するものです。しかし大きな導入コストがかかり、ワーカーが専用デバイスを持ち歩かねばならなくなります。そこで新たなハードを設置せず、既存の設備を流用することで可能になる、位置検知システムに注目しました。流用するのは、どのオフィスにも設置されている空調機です。
リアルタイムでの情報更新や継続的に使用してもらう ルール作りが課題だった。
空調をスマホで操作するシステムの延長に、位置探知システム
2019年、弊社ではビル用マルチ空調をスマホで操作するシステム「マイリモBLE」を開発しました。これはスマホを使ってワーカーが直接オフィスの空調を操作できるシステムです。空調機に組み込まれたBluetooth®受発信機により、スマホでアクセスが可能になります。このマイリモBLEを導入すると、次に可能になるのが今回紹介する位置探知システム 「MELRemo-IPS」です。マイリモBLEによってネットワークされたBluetooth®通信を流用して、ワーカーの手元にある端末(パソコンあるいはスマホ)と空調機をつなぐことで、端末の位置が探知できるようになります。
ワーカーが持っている端末が、そこに届くBluetooth®波の強さの違いを距離に置き換えて3点測量などの原理に基づき、位置を演算するというメカニズム。
Bluetooth®をなぜ空調機に設置するのか?それはマイリモBLEを流用するからですが、もうひとつ理由があります。それは、1台の空調機のカバーエリア(スパン毎7.2m間隔程度)と、Bluetooth®のカバーエリア(10m間隔程度)がほぼ一致しているから。この類似性をうまく利用したシステムと言えましょう。
ワーカーの居場所はアイコンで表示され、最後に計測された時刻も表示されるため、退席後もその席にいた痕跡が残ります。室内温度をエリアごとに色分けしているので、各自好きな温度の空間を選択してもらうことが可能です。温度情報と組み合わせた空間選びのサポートにより「空調機に近くて寒すぎる」「窓に近くて暑すぎる」といった空調に対する不満を解決するツールにもなりますし、緩やかな空調のエリアをつくることにより省エネルギーにもつながります。将来はCO2センサーなどをオプションで連携することも計画しており、様々な情報からの空間選びをサポートします。
空調機のアイコンをクリックするとリモコン画面が現れ、そのユニットの温度設定を変更できる。
リモコン画面の例。
MELRemo-IPS
共同実証|株式会社三菱地所設計、三菱電機株式会社
MELRemo- IPSのプロジェクト紹介は当社HPをご覧ください。
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Update : 2019.01.17