今日、経済活動は持続可能性が重要視されます。その舞台であるオフィスは、環境負荷低減がよりシビアに求められています。同時にオフィスは、働き方の持続可能性も問われるようになりました。そこで注目されているのが、ワーカーの健康、快適を目指したウェルネスです。ところがこの環境負荷低減とウェルネスの両立は一筋縄ではいきません。ウェルネスオフィスを実現するには、たとえば空気を新鮮に維持するために換気量を増やしたり、温度や光の環境を快適な範囲に維持し続けたりと、エネルギー増につながる相反事象が多いのです。このジレンマを乗り越え、これからの社会に求められる新しいオフィスのプロトタイプを築いたプロジェクトを紹介します。環境負荷低減の認証であるBELS認証の『ZEB』と、ウェルネスの認証であるWELL Building Standard® プラチナランク、CASBEE-WO(ウェルネスオフィス)Sランクを取得した施設です。
ZEBとウェルネスオフィスの両立に挑む
オフィスには持続可能性が求められています。環境負荷低減の観点からはZEB(Net Zero Energy Building/ゼロ・エネルギービル)が注目され、認証制度ができています。建物運用時の消費エネルギーをすべて再生可能エネルギーでまかなえるよう、再生可能エネルギーによる創エネと消費エネルギーのトータルがゼロになるビルを目指すものです。一方オフィスにはワーカーの健康と快適性を担保するウェルネスも求められています。季節を問わず温熱環境は一定の範囲が求められます。この環境負荷低減と、健康・快適性の向上は、持続可能性の観点からどちらも今重要視されるものですが、ややもすれば相反事象。省エネが行き過ぎれば、暑い/寒い環境になりがちですが、それはNGです。ZEBとウェルネスを高次元で両立できることを示そうとしたのが、本プロジェクトなのです。
建物はZEBとウェルネス関連技術の開発加速を目的として、社員自らが被験者となって実証を推進する実証棟で、通称「SUSTIE(サスティエ)」。『ZEB』とならびWELL認証のプラチナランク、CASBEE-WOのSランク認証の両立を果たすべく最初から計画されました。しかも『ZEB』は2,000m2以下程度の小規模事例が多い中、この施設は中規模の6,000m2以上4階建てです。建物規模が大きくなると消費エネルギーが増えてZEBの実現がそれだけ難しくなりますが、ZEBの普及を視野に入れたプロトタイプとして位置づけました。
省エネ上不利な「吹き抜け」が成功のもと
ZEBは単に断熱性能を上げれば実現するものではありません。さまざまな技術が統合されてできる成果です。ここでは市場に受け入れられやすいプロトタイプを目指して特殊な技術を使わず、汎用技術のアレンジにより実現することを徹底しました。まず省エネに適した東西に長いプランを採用しました。高度の低い西陽を受けづらく、高度が高い南の日射しは庇でセーブできます。北面にガラスカーテンウォールの大開口を設けて、柔らかな北からの自然採光を充分とります。そのカーテンウォールに面しているのが1~4階を貫く吹き抜けで、この施設最大の特長になっています。莫大な気積をかかえる吹き抜け全体を冷やす/暖めるのは省エネ上不利で、一見矛盾したプランに見えますが、これがZEBとウェルネス両立のキーとなりました。
ZEBには再生可能エネルギーの利用が必須です。多くの場合、太陽光発電のパネルが設置されるのですが、施設規模に応じた面積が必要なので、広い敷地が必要とされていました。しかしプロトタイプを目指すSUSTIEでは、そのような特殊な状況下ではなく、一般的な敷地で可能になるよう、太陽光発電パネルはすべて建物上に設置しました。その面積を最大化するため、建築面積の最大化を図ります。そこで一役買ったのが吹き抜けの挿入でした。
もちろんこの吹き抜けは、ウェルネスに寄与するワークスペースの豊かさと多様性を生み出す仕掛けとして活きてきます。しかし温熱環境へのデメリットは否めません。そこで取った方法が「緩和空調」。これはすべての空間を均等に空調する必要はない、用途に応じて設定温度を変えようという考え方です。吹き抜けには長時間使用しないコミュニケーションや会議を用途に当て、設定温度を他より緩くし、水式冷暖房パネルによる放射空調を併用しながら局所空調を施しました。
シースルーエレベータ越しに壁面緑化が見える。
自然光により充分な光量を確保。
ウェルネス要素がZEBにも貢献
吹き抜け周辺にはワーカーの健康、快適性に配慮した要素がいくつも見られます。北面の大開口からは執務に適した良質な自然光が得られて、昼間の人工照明は不要です。照明は間接光でグレアを抑制しました。南面ファサードにはニッチのバルコニーを設置し、そこから外気を取り入れます。自然通風はウェルネスに不可欠な要素。近くの水式冷暖房パネルをフィルターのように通過させることで緩やかな調温調湿を行います。逆の北面にも自動制御の換気窓が設けられていて、重力換気で排気する計画。中間期の空調はこれをベースとし、緩やかに環境を調整します。
自然を感じるデザインを内部に採り入れることでウェルネスを向上させる「バイオフィリックデザイン」の考え方も、WELL認証の項目になっています。この考えを採り入れ、吹き抜けに壁面緑化を設置しました。エレベータをシースルーにした理由も、その背後の壁面緑化を可視化することにあります。フローリングやタイルカーペットのデザインにも自然要素を用いました。
ZEBとウェルネスの両立を高水準なレベルで果たしましたが、特別な条件や特殊な技術を使わない、より汎用性の高いプロトタイプとして実現できました。今後、普及への道が拓けてゆくことに期待します。
パネルに冷温水配管を敷設し、放射熱を利用した空調を計画。
夏季はパネル表面の結露による冷却除湿も期待している。
室内面積の約2%を壁面緑化している。
SUSTIE──ZEB関連技術実証棟
共同実証|三菱電機株式会社、株式会社三菱地所設計
取得認証|BELS認証 5スター/『ZEB』
CASBEEスマートウェルネスオフィス認証 Sランク
WELL Building Standard® プラチナランク
『ZEB+』を目指して地球にも人にもやさしいビル“SUSTIE”
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Update : 2019.01.17