Q : ワイン好きでもある東海林さんは、「光のソムリエ」を名乗り、照明の楽しみ方を広く発信されています。
A : ワインは30代半ばから好んで飲むようになって、ヨーロッパ出張のついでにワイナリーを巡ったり、その土地の料理とワインを合わせて“Mariage(マリアージュ)”を楽しむといったワインの世界に魅了されました。この感覚を照明の世界に置き換えてみたら、もっと一般の方にも照明の楽しさ、奥深さを伝えられるのではないか?と考えるようになり、2007年からは「光のソムリエ」というブログ企画がスタート。同時期に『デリシャスライティング』(TOTO出版、2007年)[写真1]という「光のレシピ本」を上梓しました。住宅の住まい手が、ライフスタイルに合わせて自分で照明を演出するための指南書です。照明の具体的な設置方法や、使う照明の商品名から購入場所まで、マニアックなレシピを40個ほど紹介しています。この本がとあるテレビプロデューサーの目に留まり、「マツコの知らない世界」(TBSテレビ、2015年放送)に出演することにもなりました。
さらに、ワイン好きを公言しているのだから、ちゃんと勉強しようとワインスクールに通い、「ワインエキスパート」という資格を取りました。そこで“Abbinamento(アッビナメント)”というイタリアの言葉に出会いました。フランス語のMariageと似た意味ですが、Abbinamentoは、料理もワインもしっかりと自分をもちながら、互いをリスペクトして高め合うことを意味します。ある日東京で、イタリアの世界的な照明メーカーの副社長とワインを飲んでいたとき、私がAbbinamento と言ったら、「イタリア人でも知らないような言葉を何故知っているんだ」と非常に驚かれました。彼とAbbinamentoという言葉一つで盛り上がり、以降、何度もイタリアに足を運ぶことになりました。
彼とマルケ州のレカナッティを旅している最中、私の好きなワインの一つであるKurniのワイナリーに連れて行ってもらいました。オーナーは元々バイクのエンジニアで、奥さんの実家のワイナリーを継ぐ人がいなかったため、エンジニアを辞めて跡を継いだそうで、これまた非常に気が合い、盛り上がってしまいました[写真2]。こだわりを持って自分の仕事に打ち込んでいる「変態」的な人とは、何か共鳴するものがあるんですね。そういったつながりが人生を深くしてくれる大事なものだと強く感じる旅でした。
Q : 東海林さんは長年、ザハ・ハディド・アーキテクツの建築に照明デザイナーとして参画されていますね。お二人の出会いを教えてください。
A : ザハ・ハディドさんとの出会いは、1988年の東京で、彼女が40歳くらいだったと思います[写真3]。当時は「アンビルドの女王」とも言われ、ほとんど実作はありませんでしたが、ちょうどバブル期だった日本でザハさんが設計する建築の企画がもちあがり、当時私が所属していた会社が照明設計を担当することになったのです。結局その建築計画は実現せず、その後長らく音信はありませんでしたが、なんとそこから20年後に一緒に仕事をすることになります。
2006–07年ごろ、技術の発展によってようやく「アンビルドの女王」が描く複雑な曲線や3次曲面を実現できるようになり、中国で大きなプロジェクトが始まりました。そこで私に声がかかり、中国で最初の巨大プロジェクト「Galaxy SOHO」[写真4]に参画しました。そのほか、ちょうど新型コロナウイルス感染拡大前に竣工した「Leeza SOHO」[写真5]など、SOHO Chinaというディベロッパーが世界でいち早くザハさんに発注した連作の照明設計を、私が担当しています。
ザハさんは2016年にお亡くなりになられましたが、今でも世界中でザハ・ハディド建築がつくられていて、ロンドンや北京にあるオフィスの所員数は現在800名くらい。私は主に中国でのプロジェクトに参画し、現在も2、3件のプロジェクトを担当しています。
中国、北京の中心部に立つ、延床30万平米に及ぶ巨大オフィス建築。[photo:Toshio Kaneko]
北京の新たな金融ビジネス地区に位置する、高さ200mのオフィス。[photo:Akito Goto]
Q : 偶発的でありながらもそこに強いつながりが芽生えるような、センセーショナルな出会いを数々されていますね。
A : そうですね。10年くらい前にも、ドイツの照明専門の国際見本市、Light + Buildingで、オーストリアの照明メーカーの社長に出会いました。会うなり、何だか自分と似た匂いを感じるんですね。それで仲良くなって、オーストリア西部のインスブルックまで、改めて彼に会いにいくことになりました。到着すると、「よく来た、山に行こう」と言われ、岩登りをしに行きます。彼はアウトドアスポーツが大好きで、初心者の私はいきなり崖のようなところを登ることに。ここまで来たらやるしかないのでなんとか登り切ると、「よくやった!」と褒められ、お互いの距離がぐっと縮まりました[写真6]。同じ照明の世界にいますが、全然違う人間同士。だからこそ、苦難を共にしたり、本気で体当たりし合うことで心の通じ合いを確認するような作業でした。次にインスブルックに行った時は、電動マウンテンバイクでとんでもない岩場を登りました。突きつけられる関門を乗り越えることで、さらに距離が近くなっていくんです。ついに、彼にとって特別な心を整える場所を案内してくれた時には、信頼関係が築かれたのだと嬉しくなったものです。同じ光を見て、同じ思いを共有して、同じ時に地球上に立っている、その頼もしさを感じますよね。きっと彼も同じように感じていると思います。
アメリカのポートランドでは、自らを“Lamp Lady”と呼ぶ照明好きの女性に出会いました[写真7]。偶然見つけた電球専門店のオーナーで、目立つお店ではありませんでしたが、ショーウィンドウにマニアックな電球がいっぱい並んでいたのに惹かれて入ったんです。お店のステッカーには太陽と電球のイラストと共に“HIS ONLY RIVAL”-- つまり太陽の唯一のライバルは電球だ、と書かれていました。「自分と同じことを考えている!」と、非常にワクワクしましたね。照明や光に対して同じビジョンをもって、「変態」的にこだわって楽しんでいる人との出会いは、本当に面白いです。そこで買った巨大な電球は、今でも大切に事務所に飾ってあります。
このように、地球上で数人でも、自分のやっていることに賛同してくれる人の存在を実感することは、嬉しいし、困難な状況があったとしても負けない!とも思います。私自身、逞しくなれるのです。この先も、そういった人たちとの出会いが待っていると思うと、地球上の光を求める旅はまだまだやめられません。
PROFILE
Author's Profile
照明デザイナー、LIGHTDESIGN INC.代表
東海林 弘靖
しょうじ ひろやす
1958年福島県生まれ。都市・建築照明デザインのコンセプトにLIGHT is LIFEを掲げ、照明は⽣命の根幹にかかわる⼤切な環境要因であり、私たち⼈間の暮らしの中で、⼼をいやしたり、勇気を与えたり、元気を呼び起こしてくれる重要な要素と捉える。1990年より、地球上の感動的な光に出会うために世界中を探索調査。アラスカのオーロラ、サハラ砂漠の⽉夜、パプアニューギニアの蛍の⽊など⾃然界の光を取材し続け、その光との出会いの感動を糧に超⾼層建築プロジェクトから⾚ちゃんのための集中治療室まで、⼈間と光との基幹的な関係を読み解きながらデザイン活動を⾏っている。
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Update : 2018.09.21