2019.10.29

R&D DISCUSSION Vol.20

デザインの力で未来を切り拓く
若手アーティストの発掘[後編]

桐山 登士樹 デザインディレクター

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Q : 富山県はなぜ全国に先駆けてデザインセンター[写真1]をつくったのでしょうか?

A : 富山県には薬事、工業、繊維、そして我々のデザイン、4つの研究機関があります。もともと日本海側では一番の工業圏であり、農業も水産業も盛んなのでさまざまな働き口があります。所得水準が高いわりに日常生活は質素で、蓄えを子どもの教育にまわすという文化があります。持ち家率は全国1位(2015年国勢調査)で、小中学生の学力テストも必ず上位に入ります。豊かな教育環境のもと、富山県は経済界に優秀な人材を輩出していることでも有名です。かつては、みずほ銀行(旧:安田銀行)の安田善次郎さん、丸井グループの青井忠治さん、読売新聞の正力松太郎さん、全日空の若狭得治さんなど、挙げるとキリがない。

しかし、今、言われているのは、大先輩方のような創造型ではなく、改善・改良型の人材がほとんどなんです。日本全体に言えることかも知れませんが、勤勉で優秀だけど、これからの時代にイノベーションを起こすような異能の人たちは少ない。だから、創造型の人材をどれだけ増やせるかというのが富山県の結構重要なテーマになっています。子どもの頃から自ら考える力を養う「創造力教育」をデザインセンターや美術館が担い、寄与できるのではないかというわけです。

また、富山県は「交付金モデル県」とも言われ、国のモデル事業を富山県が率先して行い、ひな形づくりに貢献しているという側面があります。地方創生に関しても然りで、大きなテーマの1つである伝統産業のモデルケースになっています。富山では高岡銅器[写真2]や越中和紙のような、地域の文化や習慣の中で根付き、産地の特性のなかで栄えた産業が、今、岐路に立っています。例えば、後継者問題や過酷な労働環境、原材料が調達できなくなるなど。これからは機械化やデータ化も必要ですし、アーカイブをつくり、100年前の「匠の技」を後世にどう残すかというようなことも進めています。課題山積ですが、それをキラーコンテンツに変えていかなければいけませんし、地域産業の活性化や、これまで力が及んでいなかったデザイン、流通といった側面を強い筋肉に仕立てあげていく必要があります。

[写真1]高岡市のオフィスパークに構える富山県総合デザインセンター
[写真2]織田幸銅器の銅製アイスコーヒーカップ(左)と、ナガエのダイカスト製うちわ(右)。400年以上の歴史をもつ高岡銅器は、国指定の伝統的工芸品で、その技術は錫やアルミなどの鋳物加工にも生かされてきた。現在はプロダクトデザインに力を注ぐ銅器メーカーも多い。

Q : 最近のプロジェクトについて教えてください。

A : デザインセンターでは、今、「越中富山 幸のこわけ」[写真3]というお土産をブランディングするプロジェクトを行っています。実は一時期、富山県には500億円の財政赤字があり、今の石井隆一知事が行なった行政改革でデザインセンターが整理合理化の対象になったことがあるのですが、そこで私が起案したのが、300〜400円くらいで富山の海産物をお土産として売る「越中富山 お土産プロジェクト」です。かねてから家内工業でつくっているような海産物を小分けにして、高岡市のデザイナー・中山真由美さんにパッケージデザインを依頼して販売したところ、結構売り上げが良く、もう少しで3億円に届くくらい。県内企業18社が参画し、知事にも非常に気に入っていただけました。金型をつくるようなプロダクトは製品化に数年かかりますが、食品であれば早くて半年でできる。また、今の時代、お土産は残さず食べきれる量で、皆に配れるくらいの手頃な価格であること、美味しいと思えばまたネットで注文できるということが売り上げを伸ばすには必要です。「技のこわけ」[写真4]はこのお土産プロジェクトの第2弾で、3,000〜7,000円くらいに価格帯を広げて展開しています。私はこうした取り組みを通して、少なくとも10億円のプロジェクトをつくろうとしています。それで5%でもロイヤリティ収入があれば、県の予算をもらわずにデザインセンターを自活で運営できます。いつまでも交付金がある保証はないので、「自活できるデザインセンター」というのをキャッチフレーズにしています。地方の一番の問題は、いまだに「寄らば大樹の陰」という感覚でいることで、いつまでも大樹があるという幻想にかられているところです。そこにデザインという手法を使ってさまざまなベンチャーや事業を興し、地域を元気にして人々の意識を変えることで、地方の力を高めていこうとしています。

ちなみに、富山に行く時は、いつも飛行機を使います。理由は2つあって、1つは飛行機が大好きだから(笑)。根がせっかちなので最短時間で移動したい。もう1つの理由は、今、羽田空港/富山空港は、全日空が1日往復4便飛ばしているのでが、これをキープするために少しでも貢献したい。これは意外と重要なんですよ。仮に4便が2便になると、今、台湾や上海、ソウルなどから富山空港に来ている海外のエアライン会社が来れなくなってしまう可能性があるんです。なぜかと言うと、今、彼らは富山空港での飛行機の保守点検や給油を全日空に委託しているので、全日空が万一引き上げたら、メンテナンスする人がいなくなってしまうというわけです。富山の人は、意外と富山空港からソウルの仁川空港まで飛んで、そこからヨーロッパに行くことも少なくない。定期便が飛んでいるので、そのほうが安かったり早かったりします。

Q : 世の中の仕組みを知っているから、デザインが武器になるのですね。

A : 経験値も含め、そうした仕組みはある程度のレベルまでは分かっていると自負しています。何かをつくろうという時、こうする方が合理的だろうとか、売れるだろうといったことは割とすぐにイメージできるので、どんなジャンルでも意見を言えるし、一緒に考えたりするのが好きです。子どもの頃の話をすれば、なんでも想像するのが大好きだったんですよ(笑)。トム・ソーヤの冒険みたいな感じで、自分で夢物語をつくっていくのが大好きなんです。だから大人になって、それを現実にしたくなる。想像から実践にフェーズを移しただけで、僕の中ではあんまり変わっていません。ほとんどのケースで実現するまでに何年もかかったりしますが、元来くじけない性格なので(笑)。

あとは、流れを変えるには自分で仕掛けていくしかないんです。とにかく自分で企画してやってみる。デザインセンターの建物自体もどんどん拡張していて、2017年にはデザイナー支援を目的としたデザインオフィス棟「クリエイティブ・デザイン・ハブ」を増築し、今年はさらに「バーチャルスタジオ」[写真4]を増築しました。これはVR技術を活用し、3Dの設計データを実寸・立体で検証できるスタジオ空間です。これまで費用や時間の面で試作が困難だった、住宅用建材や自動車関連製品といった大型設計物の開発をサポートできます。アイデアの引き出しはたくさんあるので、それを十分活用しながら、凝り固まらないようにしたいですね。

PROFILE

デザインディレクター

桐山 登士樹

きりやま としき

1952年長野県生まれ。技術開発の研究者、広告マーケティング、デザイン・建築の編集者を経て、1988年にデザインの企画制作会社、株式会社TRUNKを設立。国内外の展覧会のプロデュースやデザイン情報サイト/ウェブマガジン「ジャパンデザインネット(JDN)」の立ち上げなどに携わる。1993年より富山県総合デザインセンターの設立に向けて活動。現在は、東京・富山・ミラノを拠点に、ディレクション、ブランドプロデュース、展覧会のキュレーションなどを行う。株式会社TRUNKディレクター、富山県総合デザインセンター所長、富山県美術館副館長。


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