2019.10.29

R&D DISCUSSION Vol.19

デザインの力で未来を切り拓く
若手アーティストの発掘[中編]

桐山 登士樹 デザインディレクター

R&D DISCUSSION TOP

トップ画像:桐山さんがプロデューサーを務めた2018年のミラノサローネ、
セイコーウオッチの展示「THE FLOW OF TIME」[photo:大木大輔]

Q : ご自身が携わられてきた国内外のプロジェクトで、若手クリエイターをたびたび起用されていますね。

A : よく「どうしてこの人をそんな前から知っていたんですか?」とか「まだ無名の新人をどうやって発掘しているんですか?」と聞かれます。私は、常にキュレーション的な視点で人を見ています。つまり、社会やデザインの歴史、動向をふまえて「これからはこういう分野にこういう人が出てくるだろう」という仮説を立て、そのフィールドに入って来るのが誰かと見張っていると、引っ掛かってくることがあるんです。たまたま投網を投げて掛かってくるという確率は低い。これからのものづくりがどうなるかとか、ある程度自分の中でマトリクスを整理していて、ここにこんな人がいるだろうという意識で世界を見ているのです。

とくに34年間連続で欠かさず足を運んでいる「ミラノサローネ国際家具見本市」[写真1]では、世界のトップデザイナーだけでなく、その周辺にいる人たちも自分なりにマークし、次に誰が来るか、どんな人がいるかをリサーチし続けています。あとはプロジェクトで協働するデザイナーや建築家のスタッフたちをよく見ていますね。一緒に仕事をすると、その人がどこにフォーカスしているか、何をテーマにしているかは、大体分かりますよね。15分くらい話すだけでも、その人の興味や、どこを追い求めているかが分かってくるので、もうちょっと話したいと思う人が出てくるんです。ある種の勘みたいなものです(笑)。

また、1999年から、ジャパンデザインネット(JDN)というデザイン情報サイトで「注目のデザイナー」という連載[写真2]をもっています。20年もの間、毎月、目をつけた若手デザイナーを総勢250名近く紹介してきたので、若い人たちの方からも「作品を見てほしい」と近寄って来てくれるんです。たまには学生さんも来られるのですが、ちょっと作品を見せてもらうと私なりに分かるものがあるので、それを指摘すると大抵仲良くなっちゃう(笑)。そうしたら定期的に会いに来たり、情報を送ってくれたりする。そうやって若い世代のことを知ったり、リサーチしています。

Q : 以前から注目していたクリエイターを挙げていただけますか?

A : 最近だと、デザイン関係では、吉泉聡さん。東北大学工学部を卒業後、デザインオフィスのnendoや、ヤマハのデザイン研究所に勤め、2013年に「TAKT PROJECT」を設立して以来、既成概念を覆す実験的なプロジェクトを次々と展開し、今最も注目を集めるデザイナーです。プロジェクトの目的やプロジェクトが生み出される過程、可能性に軸足を置いているというスタイルが、非常にユニークだと思っています。

建築関係では、石上純也さん。彼が有名になる前の頃から知っていて、2005年のミラノサローネではクライアントを説得し、レクサスの展示「L-finesse the art of Lexus」[写真3]の会場構成に抜擢しました。これが成功したので、その後2008年にキヤノンが出展した「NEOREAL」にも起用しました。「ちょっと実験してみないと」が石上さんの口癖で、とにかく試行錯誤を貫くスタイルが魅力です。翌2009年と2010年の同キヤノン出展[写真4]の会場構成をお願いした平田晃久さんも、伊東豊雄さんの事務所にいた頃から知っています。新たな領域を開かなければならないという強い意志をもった建築家です。

普通は出てきたデザインを見て、その人を評価すると思いますが、それではこの仕事はできないと思います。前に進むという意味でも深まるという意味でも、時代は進化します。その人の中に、今よりも魅力的に見えるものや、次の時代を透視できるものがあるかどうかで評価します。ただし、クライアントがそれを良しとするかは別なので、そこは自分の中で腹をくくるしかない(笑)。今もまさに育てている若手建築家がいます。育てる、と言うのもおこがましいのですが、その人が力量を発揮できるプロジェクトを見つけたり、時にはつくったりもします。また、さまざまな経験がその人の幅を広げたりするので、数年がかりです。やっていることは芸能プロダクションがタレントを売り出すのとちょっと近いですよ。その人の魅力をどういう形で、誰に向けて表現するのがいいかを考えます。ある1点で推し進めるのであれば、私がやらなくても良いと思うんです。今の道以外の領域をどう設定できるか、そして相手も興味を持って乗ってくれるか。深夜まで延々と話し合うこともあります。向こうは若いですから、この仕事は体力が要りますよ(笑)。

Q : クライアントはどうやって説得するのですか?

A : 我々は、自分たちの信念とか考え方をいかに企業に理解してもらい、買ってもらうかしかありません。もちろん十分な予測は立てますが、実際のところ、上手く行くケースと行かないケースがあります。しかし、徐々に理解が進み、最後は企業とデザイナーが一緒になってものづくりが完成する。それは非常に感動的で、この仕事は1本の演劇をつくるのと同じだと思っています。つまり、舞台という感動の場をどうつくるかが肝なのです。まずは、どういうキャスティングをするか。そこにはデザイナーや建築家など、さまざまなクリエイターたちが必要です。シナリオの精度も高くなければいけませんし、どう演出するかも重要です。あと、クライアントに「いいものつくりましたが赤字です」とは言えないので、きちんと予算も合わせなきゃいけない。でも、上手く行ってクライアントに喜んでもらえるのももちろん嬉しいですが、長年やってきて良かったと思うのは、「一緒に仕事ができるだけで嬉しい」と言ってくれる若手デザイナーがたくさんいるということですね。

行政機関も同じです。我々は顕在化しているものをつくりましょうというのではなく、「これからはこういうものをつくるべき」という話をするので、書類とか図面ではなかなか理解は得られません。お互いにこの人だったら任せても良いという気持ちにさせるしかないのですが、これはプレゼンの仕方次第。さらに行政機関の場合は最初に予算を取らなければいけないので、財政部門とか議会にも理解されるものでなければいけない。ここはロジックで突破します。実務でやり取りする課長クラスの職員は、事務としては高いレベルのプランを出してくれますが、全体を俯瞰したマトリクスみたいなものが不得手なので、我々はその部分を担当したり、ヒントを出したり。「餅は餅屋」じゃないですが、得意とするところは出し合って一緒にやっていく。いずれにせよ忍耐も必要ですが、実際にやっていく中で、お互い良いチームになれることがほとんどです。

PROFILE

デザインディレクター

桐山 登士樹

きりやま としき

1952年長野県生まれ。技術開発の研究者、広告マーケティング、デザイン・建築の編集者を経て、1988年にデザインの企画制作会社、株式会社TRUNKを設立。国内外の展覧会のプロデュースやデザイン情報サイト/ウェブマガジン「ジャパンデザインネット(JDN)」の立ち上げなどに携わる。1993年より富山県総合デザインセンターの設立に向けて活動。現在は、東京・富山・ミラノを拠点に、ディレクション、ブランドプロデュース、展覧会のキュレーションなどを行う。株式会社TRUNKディレクター、富山県総合デザインセンター所長、富山県美術館副館長。


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