桜井による三菱仮本社(以下、仮本社、現三菱ビル南側)は、保岡が第二十一号館で試みたアメリカ式オフィスビルから何を継承し、発展させたのか。
平面はロの字型共用廊下の中庭形式とし、メインエントランスは交差点側ではなく中央に計画されている。多くの人々のライフスタイルに影響を与えた東京駅(大正三年)からのアクセスに配慮したと思われる。
次に矩計図を見ると、化粧煉瓦もしくは煉瓦の段数が図示されていることがわかる。仮本社(鉄骨煉瓦造)と第二十一号館(SRC造)の階高設定の考え方は明治期の煉瓦造の思想を受け継いでいる。
最後に大名小路側の立面図を紹介する。第二十一号館までは赤煉瓦のクイーン・アン様式を継承していたが、仮本社はセセッション風かつ白色化粧煉瓦貼りである。塔のデザインまで箱型としたファサードは、明治期のデザインを離れ、新しい時代を感じる外観デザインと言える。
ところで、なぜ、今までのデザインを踏襲しなかったのか。
石原信之の回想に「もう少し近代的なものにせよ」と外観のやり直しが命ぜられたとある。桜井が完成させていたチュードル式外観の図面はどこにあるのか!? 目下捜索中である。
セセッション風白色系の外観
当ウェブサイト内のコンテンツ(情報、資料、画像等)の著作権およびその他の権利は、当社または当社に使用を認めた権利者に帰属します。法律上許容される範囲を超えて、これらを無断で複製、転用、改ざん、頒布などをおこなうことはできません。
Author's Profile
住谷 覚
すみたに さとる
古図面と出会って数年。設計者の思いを想像しながら向き合うことを大切にしています。描き込まれた大先輩のスケッチに共感したり、逆に悩んだり。図面に残された謎が解けた瞬間が一番の楽しみです。
Update : 2016.03.01