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2014.06.01

連載|ものづくりの視点 No.70

地球温暖化防止への木材利用

東條 隆郎

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林野庁の資料によると、日本の森林資源の蓄積は年々増加し、年間成長量は約8,000万m2となっているのに対し、国産材の供給量は約2,000万m2でその余力は非常に大きい。資源小国と言われている日本においてこの貴重な未利用資源を利用しない手はない。

 

各自治体でも木材の利用促進に向けた取り組みが始まっている。東京都港区では、一昨年「協定木材利用推進方針」(協定木材:間伐材を始めとした国産木材の活用促進に関する協定を港区と結んだ地方自治体から産出された木材)を定め、公共施設への積極的な木材利用が始まった。5,000m2を超える建築にも協定木材の利用を促している。床面積1m2あたり0.005m2の利用を目標としており、床面積10,000m2の建物では木材利用量は50m2となる。平均的な木造の住宅(120m2)1棟分の木材使用量が25m2程度であるから、2棟分に相当する。木が使われるのは内装材の一部や造作だが、建築基準法改正により構造材として利用できるようになれば、住宅以外での利用も期待できる。

 

現在、建築生産現場では、さまざまな省エネルギー・省CO2の取り組みがなされている。木材利用することはCO2を固定化する。またさらに、木材再生産はCO2の吸収・削減につながると同時に、日本の林業の再生にも貢献すると期待されており、その波及効果は大きい。

 

今年の3月末にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第38回総会が横浜で開かれ、IPCC第5次評価報告書、第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)が公表された。その報告書の中で温暖化の影響が広範囲に観測されていることが示され、世界の各地域別の影響、食料、水、生態系などに対する影響について述べられている。IPCC議長のパチャウリ氏は「地球上に温暖化の影響を受けない人はいない。何も手を打たなければ被害は拡大し、元に戻れないような影響か出る可能性が高まる」と発言している。また、昨年の秋に出された第一部会報告書(自然科学的根拠)で、2016年~2035年の気温上昇は、0.3~0.7度の間である可能性が高いことが示された。また、「将来に関し地球温暖化の進行がより早く、大きくなると、適応の限界を超える可能性があるとしているが、政治的、社会的、経済的、技術的システムの変革により、効果的な適応策を講じること、緩和策を促進させることで強靭な社会の実現と持続可能な開発が促進される」と記述されている。将来予測されるリスクに対し、現時点で取り得る方策は気候変動の速さと大きさを制限することに尽きるのである。

 

日本における温室効果ガス排出量はこのところ増加傾向にある。京都議定書の基準年に比べリーマンショック後の2009年に-4.4%になったものが、2012年には6.5%増の1,343百万トンとなっている。内訳をみると、産業部門・運輸部門は減少傾向にあるものの、業務部門・家庭部門からの排出量は基準年に比べ50%程度増加している。(環境省「日本の温室効果ガス排出量の算定結果」)この二部門は我々建築設計者が主に関与しているジャンルである。

 

木材利用は効果的な対応策というより緩和策であるかもしれないが、建物の長寿命化に取り組むとともに、建築設計段階での取り組みいかんでCO2の削減量は大きく変化するだけに、木材利用も含め建物のライフサイクルCO2の削減につながる方策を講じていくことが重要である。

Profile

元株式会社三菱地所設計 代表取締役副社長執行役員

東條 隆郎

とうじょう たかお

Update : 2014.06.01

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