130th ANNIVERSARY

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三菱地所設計創業130周年記念 想う力
      未来へつなぐ

三菱地所設計創業130周年記念 想う力 未来へつなぐ
CONTENTS

05【座談会❶】 〈共助〉を促す建物・仕組みが
        街を強くする 鬼澤仁志 [関西支店]小島知典 [デザインスタジオ]村松保洋 [建築設計四部]海野宏樹 [九州支店]近藤卓 [電気設備設計部]

進化するBCPへの取り組み

まずは、最近の超高層ビル設計におけるBCP対策についてお伺いできますか。

海野:大手町フィナンシャルシティ グランキューブ(以下、グランキューブ)」は、大手町連鎖型都市再生プロジェクトの第3次事業で、計画段階に東日本大震災(2011年)が発生したことが災害対策強化への取り組みのきっかけとなっています。発災直後に街で多数の帰宅困難者が発生したこと、さらにその後の全国的な原子力発電所の稼働停止により夏場の電力不足に起因した計画停電の危機などから、大規模な災害発生時に事業が継続できないとオフィス街としての価値を失ってしまう懸念があったからです。

近藤:東日本大震災では津波による被害も大きかったため、「グランキューブ」では、当初地下に計画していた電気室などの重要諸室を、浸水しないように上階へ設置するように設計を変更しました。どうしても地下に設置しなければならない地域冷暖房施設(DHC)や下水を処理する汚水浄化設備には、重厚な水密扉を設置して浸水を防ぐようにしました。

海野:さらに、水の自立性を高めることにも挑戦しています。災害時には汲み上げた井水を高度ろ過設備によって飲用に利用し、上水の供給を止めないようにしました。この井水は通常時にはコジェネレーションシステムの冷却補給水としても使用しています。また、都心浄化設備を設置し、下水機能がダウンしてもトイレ洗浄水等のビルの汚水を浄化処理し、隣接する日本橋川へ放流できる計画としました。これらは東京都の協力がなくては実現できなかったと思います。「グランキューブ」は隣接する第2次事業の「ノースタワー」、「サウスタワー」に入居している医療サービス施設等との連携を想定し、要救護者の一時的な受け入れ機能を備えています。また、「星のや東京」では、被災時に災害救護等に携わる活動要員の滞在受け入れを想定しており、他にも、施設内の温浴施設を開放する予定となっています。

鬼澤:丸の内二重橋ビル」の位置する有楽町エリアは、竣工後、長い時間の経過したビルが多く建ち並んでいます。「新国際ビルヂング」(1965年竣工)の地下にこの地区の地域冷暖房のメインプラントが設置されており、そのプラントから、丸の内仲通りを挟んだ両側の建物に、ビルからビルへと配管がつなげられ、熱の供給が行われていました。しかし、この状況では地区内の建物を更新しようとするとその先のネットワークも遮断されてしまいます。そこで、「丸の内二重橋ビル」の建て替えに合わせて、計画地に地域冷暖房施設のメインプラントと、コジェネレーションシステム、非常用発電機を設け、丸の内仲通りの下に耐震性に優れた洞道を整備し、各ビルへ平常時の熱と、災害時の電力、中水、情報通信網を供給することにしました。これにより、新しい設備に更新しにくい既存のビルに対してもBCPを向上させることができ、また、老朽化が進んでいる建物の更新も隣のネットワークを気にすることなくできるようになり、エネルギーの信頼性や耐震性の高い街となります。

村松:「丸の内二重橋ビル」の建物側のBCPの取り組みは、基本的に「グランキューブ」での考え方を引き継いでいますが、東日本大震災の時に計画した「グランキューブ」はBCPの機能としては、フルスペックであるのに対して、それから数年経った「丸の内二重橋ビル」では、コストパフォーマンスも考慮しながら、災害時に最低限必要なものは何かということを、テナントを含めて議論しながら厳選しました。

BCPからDCP(District Continuity Plan)へ

今お伺いしたBCP対策は、
ビル単体だけでなくエリアにも貢献されていますね。

小島:そうですね。「グランキューブ」や「丸の内二重橋ビル」、さらに「大手門タワー・JXビル大手町パークビルディング(大手町ホトリア)」や現在計画中の「東京駅前常盤橋プロジェクト」は、ビル単体として高いBCP性能を備えていることに加え、そのエリアの防災にも貢献できる、いわゆるDCP (District Continuity Plan)性能を持った「防災拠点機能ビル」として位置付けられています。この「防災拠点機能ビル」の概念は、東日本大震災の時に東京の業務地区で大量に発生した帰宅困難者が行き場を失い滞留し混乱が生じ、社会問題となりましたが、その経験が原動力となっています。

鬼澤:大丸有エリアでは、計画時に隣接するビルのことを一緒に考える、エリアで建物を考えるという文化が昔から根付いているので、防災に関してビル単体ではなく地域で考えるということには親和性があったと思います。

小島:本来であれば、そのエリアにおける防災計画はマスタープランで描かれるべきなのでしょうけれど、われわれが大丸有エリアで130年もの年月をかけて行ってきたまちづくりはどちらかというと集積型です。それぞれのビルが事業性を持っているので、それぞれの事情や立地に応じて計画するしかありません。そうしてこのエリアでできることを集積してきたのです。エリアとしては同じ機能を集積しても仕方がないし、バラバラであっても群としての力にならない。非常に難しいバランスの中で進んできたのです。それらをマッピングしてコントロールするために、東京大学の加藤孝明教授と一緒につくったのが「防災拠点機能ビル」の評価手法なんです。

豊かな〈共助〉への取り組みと 、発信することの重要性

「防災拠点機能ビル」の説明を伺うと、設計者が考慮するフィールドが、建築から街区へと拡がっているのが分かりました。
ではその時、設計者はどのように考えないといけないのでしょうか。

小島:「グランキューブ」で、このビルにいればまず安心だという〈自助〉のスペックはほぼ完成しました。しかし、〈公助〉が届くタイミングは72時間以降、下手をすれば1週間以降と言われている中、〈共助〉をどれだけ豊かなものにするかが問われてくると思います。また、その〈共助〉は大丸有エリアだけでなく、隣接するエリアに対してどれだけ〈共助〉が生み出せるかということも重要になります。例えば、「東京駅前常盤橋プロジェクト」は、大丸有エリアの外郭部にあり、隣接する神田・日本橋という災害リスクの高いエリアへの貢献も考慮して計画を進めています。さらには、防災のシンボルとなることも目指しています。災害時でもここは大丈夫だ、日本は大丈夫だということを発信できるような、意匠やBCP性能を含めたトータルデザインを行っていきたいとチームみんなで考えています。

海野:こういった取り組みをもっと設計者が発信していかなくてはいけないようにも思います。高いスペックの機能が準備されているのに、いざ災害が起こった時にオフィス利用者が使えないと意味がない。例えばこれだけIT 技術が発達し、今やみんなスマートフォン等デバイスを持っているので、災害時に「どこに行けば避難できる、何がある」といった情報が得られるようなこともできるかもしれない。

シナリオを考えて想定外に向き合う

次々と想定外の災害が生じる状況に、レジリエンス*を高めて対応していくために、
設計者にはどういったことが求められるでしょうか。

小島:例えば、事前復興ということがあるかもしれません。それは、日常時から災害時を想定しどれだけ対応しておくかということですが、これには事業との両立が不可欠だと思うのです。防災倉庫や非常発電機等、災害への備えは、日常時においては使わないので負担でしかないのです。そこでわれわれができることは、普段使っているものが災害時でも有効な計画とすることなのです。さらに、そういった計画を評価してより積極的なインセンティブにつなげたりするような行政側の仕組みが、事業者側の事前復興への動機付けには必要だと感じています。

近藤:構造は建築基準法の何倍をみて冗長性を持たせようとか、災害時のエネルギー供給は72時間だ、いや1週間は必要だ、とか、スペック競争をやっていてもキリがない。重要なのは、自分たちがつくったものが想定外の状況でもどれだけ有効に使いこなせるかという検討で、それに尽きると思うのです。

村松:確かに、スペック競争という技術面だけでなく、いかに想定外に対応できる要素を見出していくかというシナリオが必要でしょうね。大丸有エリアは大きなシナリオがない分、それぞれの建物で時代に合わせながらそれぞれにシナリオを考え、修正しながら常に磨いていく必要があります。それがビルを超えた街の能力としてつながっていくのだと思います。大丸有エリアで過ごしている約28万人というたくさんの人の命がかかっているということを意識して、自分たちにできる働きかけが何かを探っていきたいです。

* レジリエンスとは、ある対象に何等かの外乱要因が作用した場合のその対象の性能低下からの復旧力に関するものと定義されている
(参照:日本建築学会 建物のレジリエンスとBCPレベル指標 特別調査委員会報告書、2020年3月)

member

  • 鬼澤 仁志
    きざわひとし

  • 小島 知典
    こじまとものり

  • 村松 保洋
    むらまつやすひろ

  • 海野 宏樹
    うんのひろき

  • 近藤 卓
    こんどうたかし