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三菱地所設計創業130周年記念 想う力
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三菱地所設計創業130周年記念 想う力 未来へつなぐ
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08 【座談会❸】CMで広がる組織設計事務所のクライアント支援 吉田敏明[ コンストラクションマネジメント部]清水明[ 経営企画部]田中宣彰[ 営業推進部]

発注者のパートナーとしてビル建設に携わってきた三菱地所設計の歴史

まず、三菱地所設計のCM(コンストラクション・マネジメント)業務は、いつ始まったのか、歴史についてお話しいただけますか。

吉田:当社のルーツは1890年に三菱社の建築計画を担当する組織として設立した「丸ノ内建築所」であり、1893年に竣工した丸の内初の本格的なオフィスビルである「三菱一号館」の建設に携わった頃から、設計業務以外にも時代の変化に応じたマネジメントに取り組んできました。

1920年には、アメリカ式のオフィスビルを目指した旧「丸ノ内ビルヂング」(1923年竣工)の建設に向けて、三菱合資会社地所部とアメリカのフラー社との間で、合弁会社であるフラー建築会社が設立されました。ここで、前例のない工事契約(実費精算報酬加算方式)に取り組んだのです。旧「丸ノ内ビルヂング」の建設にあたっては、発注者である三菱合資会社自ら現場に監督者を常駐させ材料検査、工事費の管理といったマネジメントを行いました。

その後、1960年代には丸ノ内総合改造計画(1959年策定)として丸の内の第1次の再開発が進みますが、この頃から高度成長期にかけてゼネコンの技術力、調達力が高まってきたとされ、マネジメント業務としては性能発注や分離発注等のより高度な発注契約方式へシフトしていくこととなりました。それが、1990年代後半になってバブル崩壊がきっかけとなり、一気に社会や経済の状況が変化していく中、建築においてこれまで以上にコストやスケジュール、品質の専門的なマネジメントが要求されるようになり、さらに技術的な中立性を持って発注者の立場でアドバイスをする存在が求められ、CMが広がっていきました。当社では2000年に三菱地所の設計監理事業本部に工務部CM室が設置され、2001年には三菱地所設計CM室(2005年にCM部に改組)が設置されました。

複雑化・多様化する課 題にインハウスCMの専門的な技術力で応える

現在CMが必要とされている理由をどのようにお考えでしょうか。

清水:CMという業務は、建築の与条件整理や事業予算の確認、さまざまな技術的チェックを行うなど、元もとは発注する側に内在していた要素だと思います。しかし、発注者側の技術者の減少によるアウトソーシング化に伴い、その業務をどうサポートするのかということが課題になっています。かつては設計者が設計業務の一環としてすべてを担ってきたのですが、プロジェクトが多様化し関係者が多岐にわたるようになり、建物を建設する発注者の社会的責任がサスティナブルな社会においてはますます大きくなってきていること等もあり、社会的責任を果たす取り組みのひとつとして、設計業務と分離して発注者側のマネジメント業務を担うCMという分野が注目されてきたのではないかと思います。近年、国土交通省が公共のプロジェクトでCM方式を推進しているのも、同じような経緯だと思われます。

田中:そういった背景があり、十数年前から組織設計事務所各社がそれぞれCMへのトライを行ってきていて、例えば、日建設計コンストラクション・マネジメントや山下PMC等は、分社化されてCM専業会社として活躍されています。そんな中、当社のCMの特徴はインハウスであることが挙げられますが、その強みはプロジェクトの特性やクライアント側の意図をくみ取り、CMだけでなく基本計画とCMや、CMと工事監理等、さまざまなメニューを提示できることにあります。これはCMの専門会社にはできないことです。さらに、プロジェクトの種類に応じて、普段最前線でその分野の最新の設計状況に触れている担当者とチームを組んで取り組むことができるということも挙げられます。

クライアントのニーズに寄り添った多数のメニューを展開

では事例から、三菱地所設計のCM業務の特徴についてお話しいただけますか。

田中:「福井銀行」〈ワークプレイスコンサルティング〉は、複数ある拠点に分散していた企画部門を統合して新しい本店ビルを建てるというプロジェクトです。働き方改革が求められている中で、ワークプレイスのあり方はその会社自体の経営にも結び付きます。そこで、設計監理から独立させ、CM部で働き方について現状と課題をクライアントと一緒に見出し、その課題解決のためにはどんな働き方が必要で、それにはどんなワークプレイスが適しているのかということを提案しました。社内においても、こういった設計監理業務とCM業務のコラボレーションが増加しています。

吉田:当社内でも新しいワークプレイスをつくり、働き方改革に取り組んでみました。部署ごとに、課題の洗い出し、物量の調査、新しい働き方のコンセプトづくり、さらに発注から納品までマネジメントするということをCM部で行ったのです。自社内でも、さまざまな人間がいてそれぞれに働き方が違いますから、それをまとめるというのは非常に骨が折れる業務でした。こういう業務は、外部の人間が入った方が冷静かつ円滑に進むこともあり、今後はワークプレイスコンサルティングとして展開していければと考えています。

清水:G. Itoya」〈基本計画+CM〉では、基本構想と基本計画を通じて、クライアントの要望を具現化するため、設計の骨格づくりからお手伝いしました。三菱地所という開発事業者と長く仕事を行ってきた経験から、商業施設として必須な「整形で可変性が高い最大限の平面プレート」を確保した上で、優れた機能を失わずに東京都の安全条例を逆手に取った特徴的な平面計画や35度傾斜のエスカレータ、W階段の導入等、縦動線のコンパクト化を提案しました。その後工事段階でも、詳細なデザインや素材選定、サイン等、竣工まで意匠監修としてサポートしました。設計施工の大成建設の担当の方とも、非常によい関係性を築いて竣工まで進めることができました。今後もクライアントの要望に応えるひとつとしてCM方式は一定の割合を占めるので、設計と施工、CMが対峙するのではなく、よりよいものを求めてお互いの意見を尊重し取り入れていくような柔軟な対応が必要です。

吉田:ミキモト銀座本店」〈基本計画+CM、建築家とのコラボレーション〉でも、基本計画とCM業務を担当しました。基本計画には、プロジェクトの組織体制の構築も含まれていて、外装デザイナーの候補を挙げ、一軒一軒事務所へお伺いして、参加をご了解いただいた複数社で外装デザインのコンペを実施しました。最終的に内藤廣さんにお願いすることに決まり、維持管理の面等からも外装デザインについていろいろ検討を依頼したのですが、柔軟にご対応いただき意図されたデザインが具現化されました。

田中:三菱鉛筆本社ビル」〈第三者監理+CM〉では、CM業務と第三者監理という組み合わせを提案しました。公共プロジェクト等で工事監理だけを切り取って第三者でやるものがありますが、それではなかなか設計の経緯が分からず、工事監理だけを粛々と行うことになってしまいます。CMとして設計段階から入ることで、設計内容を理解して図面に対してもしっかりとレビューをした上で工事監理を行うことができ、よりクライアントの要望に沿った品質を確保することができます。

吉田:CM部ができてすぐに「東京国際空港(羽田)第2旅客ターミナルビル」〈プログラムマネジメント〉の発注支援に携わりました。それ以降も継続して羽田空港のプロジェクトに携わり、成田空港、福岡空港、高松空港、鹿児島空港等の空港事業者への技術支援も実施してきた実績があり、これは他のCM会社と差別化が図れるポイントであると思っています。2019年度には、CM部内に空港事業推進室を設置しました。空港の施設群は、複数の建築プロジェクトが連鎖的に整備されるため、それらを包括的にサポートするプログラムマネジメントという業務を実施しています。同じブランドでシリーズ展開される物流施設や賃貸オフィス等でも、そういった受注が多いのも当社CMの特徴と言えると思います。

清水:当社の中期経営計画では海外の売り上げ目標を全体の10%以上としていますが、CMについても海外展開を見据えていきたいと考えています。一般的に海外では日本の設計事務所に設計者資格がなく、ローカルアーキテクトとの連携が必要となるので、CMに近い業務を行っているとも言えます。日本の高い品質を求める海外のニーズに対して、法律や制度、技術力等が違う場所でいかにコンサルティング的な立場で海外業務を展開できるかというところが課題であると感じています。

❶ 「福井銀行」(設計:三菱地所設計、2020年竣工)執務スペースのイメージ。
❷ 「G. Itoya」(設計:大成建設一級建築士事務所|施工:大成建設、2015年竣工)エントランスを見る。
❸ 「ミキモト銀座本店」(設計:KAJIMA DESIGN 内藤廣[外装デザイン] 施工:鹿島建設、2017年竣工)ファサードを見る。
❹ 「三菱鉛筆本社ビル」(基本設計:プランテック総合計画事務所/清水建設|実施設計、施工:清水建設、2018年竣工)外観。
❺ 「東京国際空港(羽田)第2旅客ターミナルビル」(設計:松田平田設計・NTTファシリティーズ・シーザーペリ共同企業体|環境演出エリアデザイン監修:中村拓志/NAP建築設計事務所|施工:大成建設、2010年竣工)出発ロビー。

組織設計事務所の領域を見直すきっかけ

今後、CM業務や、組織設計事務所が携わる領域はどのように展開していくとお考えでしょうか。

吉田:CMは社内では比較的新しい分野で、クライアントのニーズにいかに寄り添うかということが求められているので、設計よりも変化のスピードが早い業態だと感じています。先ほど当社CMの強みを挙げさせていただきましたが、これからもCMのマーケットは広がっていくでしょうし、10年先を見据えて、当社の組織設計事務所のインハウスCMとしての特徴を見極めていく必要があると思っています。

清水:設計とCM業務の境目が、どんどんなくなっていくのではないかと感じています。設計とCMはラップし、設計に求められることは多様化するので、初期の段階でいかにクライアントの要望に的確に応えるメニューを提示できるかという柔軟性が必要です。一方のクライアント側も、どのような社会的責任を果たせるかを考え、最適なメニューを選定する必要があります。これからは設計事務所やCM会社だけでなく、クライアントである発注者の意識変革も欠かせません。

田中:設計施工一括での発注が増え、ゼネコンが事業者として参加している事例も出てきています。組織設計事務所には、より幅広い役割が求められています。これまでの設計事務所としての永い歴史で蓄積されたさまざまなノウハウを、プロジェクトにどう活用すれば最適なのか実践しているのが三菱地所設計のCMなのです。われわれのベースとなる設計施工分離での設計監理の技術力を向上し、その意義を理解し、伝えていける人材を増やしていくためにも、CMによって企業を活性化していく必要があると思います。しかし、まだまだ設計監理とCMの間には壁があると感じています。この壁をなくしていけば、そこには大きなビジネスチャンスが広がっているのです。

member

  • 吉田 敏明
    よしだとしあき

  • 清水 明
    しみずあきら

  • 田中 宣彰
    たなかのぶあき