130th ANNIVERSARY

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三菱地所設計創業130周年記念 想う力
      未来へつなぐ

三菱地所設計創業130周年記念 想う力 未来へつなぐ
CONTENTS

07 【座談会❷】多様な人の集まり方を許容できるオフィスへ 小西隆文[ 建築設計一部]加藤匠[ デザインスタジオ]永田大輔[ デザインスタジオ]
        古寺浩実[ 建築設計一部]伍藤留理子[ 建築設計二部]間部賢太郎[ 建築設計三部]
        沼田祐子[ 建築設計四部]諸伏勲[ 構造設計部]岩田光平[ 電気設備設計部]
        中村駿介[ 機械設備設計部]

豊富なオフィスビル設計から見るニーズの変化

加藤:今回、三菱地所設計が設計してきたオフィスビルの歴史を整理する一環として「未来のオフィスのあり方を考える」座談会を企画しました。事前にそれぞれ課題に取り組んでもらいましたが設定を10年先としたのは、必ずしも将来実現する社会という意味よりも、技術や生活様式の変化、社会課題を具体的に想定し得るタイムスパンとしました。われわれが関わるプロジェクトには計画から竣工まで10年を超えるものも多いので、現実に検討する必要があるテーマでもあると思います。まずこれまでの経験の中で、オフィスビルを設計する際の課題の変化をどう感じていますか。

小西:私は「山王パークタワー」等の超高層オフィスビルをいくつか経験して感じたのは、オフィスは「生もの」であるということです。「作品」であると同時に特にテナントビルは「商品」でもあるので、その時代のマーケットニーズに都度応じて提供していく必要があり、技術の変化や災害対策、テナントニーズ等に合わせて調整し続けていくのがオフィスの設計だと感じています。

永田:今「東京駅前常盤橋プロジェクト(TOKYO TORCH)」を担当していますが、非常に大きなワンプレートを持つオフィスなので、特にポストコロナでリモートワークが進み、「この先この規模の床をどう使うか」という議論はますます喫緊の課題となるでしょう。今すぐに結論は出ませんが、テナントニーズがより多様化、細分化していく中で従来のオフィスビルという画一的なモデルは変容を余儀なくされると思います。

古寺:三菱地所に出向した際に、事業者サイドとして「大手町ビルディング」のリノベーションを担当していました。既存の建物は小割にも適したプランだったので、今まで大丸有エリアの大きなワンプレートのオフィスビルで受け入れにくかった、伸び盛りで小規模の企業の入居ニーズにも応える選択肢となっています。共用区画を充実させて、専有部と合わせて使ってもらうことで、入居企業の事業育成も促すといったマーケットは、エリア全体で必要なピースになっていくと感じています。

ワークスタイルの変化の実感

加藤:ちょうど今回の企画中に新型コロナウイルスの影響が広がり、こうやって直接集まって議論することも苦労しました。みなさん自身の働き方の変化から何か気付きはありましたか。

伍藤:私は以前より、環境のよい郊外に住むことを選択して新幹線通勤を活用しながら自分なりのワークライフバランスを模索していて、ある程度業務が忙しい状況でもリモート環境を活用しながらうまくできた経験もあり、比較的容易に在宅勤務へも移行できています。

間部:今回のコロナ禍で当社でも自転車通勤が許可されました。昨今はシェアサイクルも一般化しており、公共交通による通勤ラッシュから解放され都市における行動範囲が大きく変わったと実感しています。欧米の先進都市のように都市圏に流入する車両を制限し、都市問題や環境問題に貢献するCar-Liteを推進してパーソナルモビリティや自転車による通勤が一般化すると、駐車場で広大な地下空間をつくる開発にも変化が生まれるのではと感じています。

沼田:私は学生時代イタリアの設計事務所で働く機会がありました。スタッフは通常時はわれわれ日本人と同じように毎日夜中までアトリエに籠って作業しているのですが、バカンスの時期になるとコンペに取り組んでいる最中であっても長期の旅行に行ってしまい昼間ホテルからリモートで打ち合わせする、といったようにプライベートとの両立ができていて、リモートの取り入れ方が自然に感じました。

制作:三菱地所設計

集うことの意義/キャンパスのようなオフィス

中村:在宅勤務が増加し職住一体が進むと、次第に自分の生活圏が特定できる範囲に固定化してしまい、多様な人との交流を通じたイノベーションが生まれにくくなってしまいますが、そこで改めて人と交流することの欲求が高まってきておりオフィスのあり方につながっている気がします。

永田:一方で通信技術が5G/6Gの時代になると、VR(バーチャルリアリティ)の精度も格段に高まり「人が集う」ためにわざわざオフィスに来なくても、実際に会って会話する空気感もリモートでリアルに共有できるようになると思います。そのような環境下におけるオフィスには、集まるためのモチベーションとなるプラスアルファの要素が求められてきそうですね。

伍藤:自宅と都心のオフィスというふたつの拠点で仕事をしていると、交流も限定的になりがちなので、生活圏にコワーキングオフィスのような第三の居場所があるとよいと感じています。仲間ができて刺激を受けたり、何気ない会話に気付きがあったり、兼業が一般化する社会ではそういった偶発性が生まれる場所が重要になってくると思います。一方で都心のオフィスでは「働く」ことが、文化的活動のひとつとして図書館やエンターテインメントのような他の都市機能と一体化するイメージを持っていて、そういった都市機能が集約したオフィスが求められるようになると思います。

間部:ドローン等のモビリティの技術革新が進むと、縦動線が集約した従来のコア形式から解放され、高層ビルでも階層ごとのヒエラルキーがなくなり、ビルのいろいろな場所に公園のようなスペースや、ジム、ヘルスケア等のワーカーの生活を豊かにする空間が点在する立体的な都市のようなオフィスになるのではないでしょうか。

加藤:そういった複合用途化するビルでは、これまでの床単価から想定される賃料と別の経済性を考える必要がありますね。充実した共用空間やサービスを包含した賃料や、アメニティによる生産性向上の効果を定量化してより高い賃料を取るなど、オフィスマーケットの変化に対応するフレキシビリティが求められそうです。

小西:私は基本的に人が集う場所としてのオフィスはなくならなくて、使い方がもっと自由になるのではと感じています。「ワーカー」は「プレイヤー」となってその場をいかに活用してクリエイティブなものを生み出すかが重要になるでしょう。そういった場合、何か仕掛けがある空間が求められるかもしれません。

古寺:集まることでイノベーションを生み出すといった視点で思いついたのは、大学のキャンパスのようなオフィスです。大学のキャンパスは学生が自由に出入りができて、講義室や研究室、図書館やカフェテラス等でいろいろな集まり方ができますが、非常にクリエイティブなモノやコトを生み出す場所でもあります。そんな大学キャンパスのように出入りが自由で、さまざまな集まり方を許容するオフィスをつくると今のニーズに合致するのではと考えています。

環境に溶け込む先端技術で支える

岩田:そういったオフィスで必要なセキュリティは生体認証等によりシステムが身体化し、ハードとしてのセンサーが環境に溶け込むことで実現していくことができるでしょう。他にも電源・通信の無線化が進めば技術はむしろ表には見えなくなっていくかもしれません。

中村:今は高性能であることが求められる傾向にあるオフィスの環境制御も、働き方の多様化に伴い、また、センサリング技術やAI技術で個別制御が一般化することで、より自由にコントロールする方向へシフトしていくと思います。そしてそれは、単純に数値的に満足するというよりも、むしろより自然を感じる環境を構築するようになるのではと感じています。

諸伏:会社組織のあり方やマーケットの変化により、オフィス空間のフレキシビリティはますます求められてくると思います。例えば現状でも、複数フロアを借りるテナントの直通階段や吹き抜け等の設置要望に応えるため、3.6×7.2m程度の将来開口対応をフロアあたり1カ所から数カ所配置する例が多いのですが、より大きな開口をより多くの場所に設置できる仕掛けが求められるかもしれません。構造合理性やコスト的な課題もありますが、技術者としては積極的に提案していきたいと思っています。

事業者に寄り添いさまざまな提案をする

加藤:未来のオフィスのあり方を考える上で、三菱地所設計が果たす役割は何でしょうか。ひとつには、これまで続けてきたように時代の要請や社会的課題について事業者に寄り添って、実直に提案をしていくことが大事であると感じています。

岩田:三菱地所設計では若手が三菱地所に出向して事業者側で仕事をする人材交流が行われています。自分が設計に携わった建物の実際の使われ方、管理のされ方を体験するといった経験が事業者の視点に立ってさまざまな提案をする基礎体力になっていると思います。

沼田:これからの設計者は闇雲に都市の高密度化に加担するのではなく、ストック活用を含めて事業者に対して川上から相談に乗れる役割が大事になってくると思います。

小西:最近ではわれわれもリサーチ業務や開発に関するコンサル業務といった川上業務も重点的に取り組み、成果を上げてきています。設計業務においてもハード面だけでなくソフト面にもっと踏み込んで提案していく必要があります。それがこれまで多くのオフィスビルを設計し、これからも提案していく私たちの使命で社会的責任でもあると思います。

member

  • 小西 隆文
    こにしひろふみ

  • 加藤 匠
    かとうたくみ

  • 永田 大輔
    ながただいすけ

  • 古寺 浩実
    こでらひろみ

  • 伍藤 留理子
    ごとうるりこ

  • 間部 賢太郎
    まべけんたろう

  • 沼田 祐子
    ぬまたゆうこ

  • 諸伏 勲
    もろふしいさお

  • 岩田 光平
    いわたこうへい

  • 中村 駿介
    なかむらしゅんすけ