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三菱地所設計は、1890(明治23)年に三菱社内に設置された「丸ノ内建築所」に端を発する、わが国で最も歴史のある設計組織のひとつです。社内には、三菱社(三菱合資会社)地所部・丸ノ内建築所─三菱地所株式会社・設計監理部門─株式会社三菱地所設計と代々受け継がれてきた設計図書(以降、三菱地所設計図面)が、途切れることなく蓄積されています。三菱地所設計古図面研究会では、2012(平成24)年より図面の整理分析を実施してきましたが、2020(令和2)年9月に会社創業130周年を迎えるにあたり、その成果を図面集としてまとめることとなりました。
三菱地所設計図面の全体像について説明します。三菱社(三菱合資会社)時代の明治期は、自社が建築主の事務所建築や創業家である岩崎家に関係した住宅がほとんどであり、大正期になって三菱以外を建築主とする建物も含まれるようになっていきます。そして、三菱地所時代になると不動産事業の拡大と共に地域も用途も多岐にわたるようになり、三菱地所設計時代ではさらに広がりを見せます。その中で、当社が時代を超えて一貫して取り組んできたのが丸の内オフィス街の街づくりと建物群の設計です。丸の内オフィス街は、明治中期に建設が始まり大正期を経て昭和初期に概ね第1世代の街が完成します。戦後、高度経済成長を背景に「丸ノ内総合改造計画」によって第2世代の街へと生まれ変わりました。そして、平成に入り第3世代の街への再構築が着手され現在も進行しています。本書は、三菱地所設計図面の中から丸の内オフィス街の建築を対象に、「第1号館」の設計開始時(丸ノ内建築所が設置された1890[明治23]年)から「丸ノ内総合改造計画」の最後に設計された「三菱ビルヂング」竣工時(1973[昭和48]年)までの64棟の図面を紹介します。
今回本書を企画するにあたり、「同一地域」「同一用途」「同一設計組織」の図面を連続した時間軸で比較することができるということが、三菱地所設計図面の特徴であるとの考えに立ち、約80年間に設計された64棟の建物の図面をシンプルに時間軸で並べることとしました。それにより、時代の要求や技術革新などによって変化として現れるものが何であるか、逆に時代や設計者が変わっても変化せず継承されているものは何であるかが分かるのではないかと思ったからです。結果として、建物の構成・構造形式・ファサードデザインに変遷の特徴を確認することができましたが、これらは同時にわが国の都市建築の近代化の変遷とも合致するものであると思います。
本書によって、三菱地所設計図面の価値が認識され広く研究活動に役立つことを期待すると共に、各時代の先輩たちが次の時代へと受け継いだ設計思想と技術の「鎖」を再認識することで、これからの設計者がどのように未来の社会づくりに貢献していくべきか、ひとりひとりが考えるきっかけになれば幸いです。